「最後の台詞が印象に残る」ローマの休日 根岸 圭一さんの映画レビュー(感想・評価)
最後の台詞が印象に残る
笑えて少し泣ける名作。
窮屈な王族としての暮らしに嫌気の差しているアン王女が、滞在中の公邸を抜け出してローマにおける一般庶民の生活を体験する。美容院に行くとか買い物をするといった、一般人にとっては日常となっている行動が、アン王女の視点からはとても新鮮で楽しい体験になる。アン王女の正体を知った新聞記者ジョー・ブラッドレーが、新聞のネタにしようと打算で彼女に接近し、ローマの市街を観光案内する。映画を通じてアン王女の気持ちを共有することができて、観ている側も楽しい気持ちになれる。
王女の身分にあることを隠すアン王女と、彼女の正体をあくまで知らない体でいるジョー。映画後半で、2人がラジオで流れてくるアン王女に関するニュースを聞いて、気まずいような、何とも言えない沈黙のシーンがある。この段階ではもうアン王女は自分の正体がジョーにバレているのを察しているが、互いにアン王女の正体について触れることは無い。それは、互いに2人で過ごす時間を大切に思っているからこそ沈黙を通していると感じられて、男女の機微の描き方が秀逸だと感じた。
ラストシーンのアン王女の台詞は印象的だ。
記者会見に登壇するアン王女は、新聞記者からの「イタリアに滞在中、最も印象に残った都市はどこか」と質問を受ける。彼女は予定されていた紋切り型の台詞を言いかけるが、唐突に「ローマです。ここで過ごした時間は一生忘れません。」と答える。王族として外交を意識した無難な言葉を言うよりも、本音を話す彼女の姿に感動する。
ローマで思い残すことは無いほど遊び尽くした彼女は、どこか吹っ切れたようで、堂々としていて、一段と成長しているように見えた。