劇場公開日 2024年4月5日

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「通過儀礼」ローマの休日 keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0通過儀礼

2020年3月15日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

笑える

楽しい

新型コロナウィルス感染拡大により、3月の予定がほぼ全てキャンセルになり、また外出するのも憚られ、いきおい自宅リビングでの映画三昧に耽っています。中でも、旧作名画スタンダードをピックアップしている中で本作を観賞しました。

あまりにも有名な、映画史に永遠に残る作品であることは今更言うを俟ちません。
ただ冷静に観ていると、実に他愛ない取るに足らないストーリーです。言わばローマ観光地巡りというような、単なるご当地PR映画という類のスジなのですが、何故だか観終えて心が温まり、活力が漲ってくる気がします。
映画全体に気品があり、洒脱な雰囲気に満ち、優雅な気分に酔わせてくれる。それは何よりも、本作が銀幕デビューだったオードリー・ヘップバーンというキャスティングに尽きると思います。彼女の醸し出す可憐で清楚で上品な美しさが、この作品全体をまろやかに包み込んでいます。
67年前の映画とはいえ、「笑って」、「泣いて」、そして「(手に汗)握る」という映画に求められる三要素がナチュラルに詰まった、映画として完璧な出来に仕上がっていることが判ります。而も、その展開のテンポが実に心地良い。
あまり寄せカットがなく、更に変則的なカット割りやパンもないので、観客は全く緊張感なく寛いだ気分で安楽に弛緩した心持ちで映像を眺められます。

本作は、単に軽妙なだけではありません。
基本的にはラブロマンスですが、甘く陶酔するだけでない味わいを感じるのは、オードリー演じるアン王女が、少女Girlから淑女Ladyに蛹化し羽化していく通過儀礼プロセスを、2時間の儀式ドラマとして描いているためです。
アン王女にとって、ローマでのたった一日の”休日”は、単純なアバンチュールではなく、決められた通りに振る舞うだけの子供だった少女が、確固とした自我を持ち己の判断で行動する大人の女性に脱皮する、崇高で厳粛な成長譚であった、といえます。
寝所を抜け出す際のコミカルさが、戻る処の堂々たる重厚さに描き方が明らかに硬質化しているのは、その証左です。
この奥行きの深さゆえに、本作は永遠の名作として、これからもその名を留め続けることでしょう。

keithKH