レッツ・ゲット・ロストのレビュー・感想・評価
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ヤク中のロクデナシ、でも愛すべき最高のミュージシャン
ウイリアム・クラクストンが撮ったチェットの写真が好きだが、この作品は監督ブルース・ウェバー、甘い空気感と鋭さを捉えたミュージシャンの美しい写真が有名な写真家、どちらの写真家の撮ったチェット・ベイカーも美しく格好良く、それだけ人の心を捉える画になる存在なのだと思う。
大好きなチェットのドキュメンタリー4Kレストア版ということで、勇んで鑑賞。つくづく、この人はその時代だから生きられた人で、今だったら絶対アウトと思う。本当にロクデナシ。でも、何故かミュージシャン仲間も、女性達もほっとけない。
彼の魅力はその声と、唯一無二のラッパの音色。レコーディング風景があるが、若干曇ってはいるけど、でも58歳でも全盛期とほとんど変わらないあの声。ドラッグと酒に溺れてるはずなのに、声が守られている不思議。生まれながらのミュージシャンと語られていたが本当にそうなんだと思う。ただ代わりに見た目がかなり老けていて70歳と言っても不思議ではないくらに見えた。58歳、早すぎる死だけど好きに生きたのだから神様はやはり平等なのかも。
ファンには最高の映画でした。
伝説の裏側
1988年5月 旅先アムステルダムのホテルの窓からの転落死でアルバム『チェット•ベイカー』を完成させたとも言える伝説のジャズ•ミュージシャンを死の直前まで追ったドキュメンタリー
ジャズの初心者が「1950年代60年代あたりのモダン•ジャズに興味を持ち始めてるんだけと、どのあたりから聴いていったらいい?」という質問をしたとします。可能性のある答えとして「まずマイルス•デービスのリーダー•アルバムをどんどん聴いてゆけばいい。他のプレイヤーもマイルスと組んだときにベスト•パフォーマンスをしていることが多いから最良のジャズが聴ける」というのがあります。なかなかいい回答だとは思いますが、これだと何人かのピアニスト、サックス•プレイヤー、ベーシスト、ドラマーには出逢えて聴き比べることもできますが、マイルスが吹いている限り、別のトランペッターには出逢えません。
私は1980年前後にジャズをかじりかけたことがあってマイルス•デービス(当時はまだ存命でした)やテナー•サックスのジョン•コルトレーンあたりの名前は憶えたのですが、ロックと比べるとジャズはやはり敷居が高く、チェット•ベイカーもその当時はまだ存命中だったはずですが、彼のところまでは、たどり着けずにいました。
私が彼の名を知ることになるのは今世紀に入ってからです。何がきっかけだったのか、まったく忘れてしまったのですが、私は50歳前後あたりから始まって数年間、’50〜’60年代あたりのジャズを聴きまくっていた時期があり、そこで彼と出逢い、お気に入りのトランペッターのひとりとなったわけです。
和田誠がジャズ•ミュージシャンたちの肖像画を描いて、そのミュージシャンひとりひとりについて村上春樹が文章を書いた『ポートレイト•イン•ジャズ』なる本があります(かなり熱心に何回も読んだのですが、どこにしまいこんだやらで行方不明です)。この本の冒頭にひとり目のジャズ•プレイヤーとして登場するのが他ならぬチェット•ベイカーです(たぶん)。村上春樹は彼のことを「紛れもなく青春の匂いがした」とか「何か特別なものを持っていた」とか書いていたはずです(たぶん)。
でも、その特別のものを持っていた期間はそんなに長くありませんでした。麻薬が彼を駄目にしました。また、そのスジの人たちに殴られて前歯を折られ、下顎を骨折するという、トランペッターにとっては致命的とも言えるケガもしました。
でも、そこから立ち直って音楽活動を再開するんですよね。このドキュメンタリー映画では再開から何年もたった彼の姿を捉えています。映画自体は1988年の製作で、恐らくは彼の謎の転落死の後にまとめられたもの。最晩年の姿と彼が「ジャズ界のジェームズ•ディーン」と呼ばれていた若い頃のフィルムとの組み合わせです。それにしても最晩年の彼の姿と言ったら…… まだ、50代半ばだったはずですが、70代のよぼよぼの爺さんみたいな風貌になっており、麻薬によるダメージの怖さを見せつけられた感じがします。
彼は歌も歌います。ファルセットの中性的なボイスでまあ「ヘタウマ」な感じですが、繊細で退廃的な香りもします。’50年代半ば頃に発表された彼のボーカルをフィーチャーしたアルバム『チェット•ベイカー•シングス』は私の愛聴盤のひとつです。10年ほど前の彼の伝記映画『ブルーに生まれついて』ではイーサン•ホークが彼を演じたのですが、ボーカル部分はイーサン•ホーク自身が歌っていたと記憶しています。
結局のところ、彼はジェームズ•ディーンが演じた映画の中の登場人物を思わせるような、儚くも美しい音色でトランペットを吹き、まわりの空気とこすれて消えてしまうのではないかという繊細で甘い歌声を披露して自らの青春をまっとうしたのではないでしょうか。そして、幸か不幸かはわかりませんが、彼には本家ジェームズ•ディーンにはない「その後」があったのです。麻薬中毒でボロボロになり、麻薬を巡るトラブルでトランペッターにとって命とも言える口のまわりのケガを負い、そして、再起して懸命に吹き、歌い、よぼよぼの容姿で欧州をさまよい、アムステルダムで58歳で生涯を閉じる「その後」が。
今、私はギタリストのジム•ホールがリーダーを務めたアルバム “Concierto” の『アランフェス協奏曲』を聴いています。開始四十数秒後、あのあまりにも有名な、ホアキン•ロドリーゴ作曲アランフェス協奏曲第2楽章のメロディに乗って、チェットの吹くトランペットが登場します。1975年4月録音ですので、このときチェット45歳。クスリとケガでボロボロになった後の再起にかけていた頃です。ジム•ホールのジャズ•ギターありきで構成されている曲ですので、チェットの演奏時間はそんなに長くないのですが、かつて何か特別なものを持っていた人間の青春の残響を聴いているようです。もう一方の吹奏楽器、ポール•デスモンドの奏でるアルト•サックスがしっとりと湿り気めいたものを帯びているのに対して、彼のトランペットは乾いた音色で、遠くに蜃気楼のようなオアシスが浮かぶ、美しい砂漠の景色を見ているようです。かつて持っていた特別な何かを失くしてしまったチェットは本当に人生の砂漠を見ていたのかもしれません。どこかにあるであろうオアシスを求めて。トランペットのソロ•パートに入ると懸命に吹くチェットの残像が浮かんできます。この残像は砂漠の蜃気楼かもしれません。でも、1929年12月23日アメリカ•オクラホマ州に生まれ、1988年5月13日にオランダ•アムステルダムで亡くなった、ジャズ•トランペッターで歌手でもあったチェット•ベイカーは確かに存在したのです。このことはいつまでも忘れずにいたいと思います。
合掌。
すべてがカッコイイ。素晴らしい。
JAZZも聴かないししかも外国の方だし………でもおそらく日本人ならCMやドラマなんかでも流れているので1度は聴いたことがあるはず。
そんなにJAZZに精通しているわけではありませんが安定の“音”を纏っていてうっとりするんだよなぁ。
動いていて質問にもまったりと答えていて、『あぁ実在したんだ。ホントのレジェンドだよなぁ』と。
ウェキペディアではサラッと読んだ程度だったので亡くなる1年前ぐらいのチェット・ベイカーなんだぁと思いつつ観ていたんですが、両脇に美女を連れて風を感じながらタバコをプカリと。
なんだろ?違和感も何もない。まるで今でも生きていてこんな感じでふわぁ〜って現れてたまに『ちょっくらやろうか?』てちょっと吹いたり歌ったりして、またタバコの煙をくぐらせて『さぁ何処か行こうかぁ?』てな感じで去って行く………。
そんなイメージのままで安心もしたし昔のミュージシャンだよなぁって思えたね。
たまらんねぇ。うん。彼の“音”にちょっとでも惹かれたなら是非観て欲しい作品………てよりLIFEでありLIVEでした。
ウエストコーストジャズ好きは観るべき
1988年ベストムービー!⭐️⭐️⭐️✨✨
2025年11月、4Kレストア版・リバイバル上映にて鑑賞。
音楽ドキュメンタリーは今までも何本も観てきましたが、この作品はその中でも最も優れた・印象に残る1本でした。
彼の女性遍歴やらこれまでの人生がもちろん語られるわけですが、そんなのはハッキリ言って、どうでも良いのです笑
心に残るのは彼の歌声やトランペットの音色です。
一聴すると、どこか危うげで「揺れた」そのトーンは、正に綱渡りでもするかのようです。しかし,スッと心に落ちて来るのは、あまりにも完璧なトーンです…これに魅了されない人なんているんでしょうか?正に希代の“女たらし”です。
悪魔に魂を売ったのは“ロバジョン”だけではなかったようです笑
*観客のとても少ない・雑音の少ない映画館で鑑賞出来て良かったです…笑
*薄いですが笑、パンフレット販売ありです。
天才トランペッターの悲劇を切り取った映画の奇跡
戦後のジャズシーン、男性ボーカルはシナトラ、ベネット、メル・トーメらの白人が有名になったけど、プレイヤーはほぼ黒人が占める中、突然現れた白人でしかもジェームズ・ディーンにも似たイケメントランペッターとして、当時のジャズレジェンド達も認めたチェット・ベイカーのドキュメンタリー。
薬物など問題を抱えるミュージシャンの話なので、功績を称えて、最後に悲しい感じで終わるのかなと観に行ったら、天才の悲劇を、亡くなる1年前の映像でみせてくれる、映画の奇跡のようなフィルムだった。
冒頭からオープンカーに女性をはべらせてモテモテのチェット。前半はほぼ、彼が何の努力もせずにのしあがる。練習もしないのに才能だけで、仕事に恵まれお金もオンナもついてくる。トランペットの腕だけじゃなくて、中性的な声を活かしたボーカルも魅力な彼氏。ボーカルで賞レースをナットキングコールと争ったくらいだからホンモノだ。
そんな前半部分の関係者インタビューでも、ちょいちょいネガティブなことをしゃべるヤツが紛れてる。ミュージシャン仲間が、オンナを寝取られたがあとでオンナがチェットは早漏だって言ってたとバラす。これが後半の布石。
後半は三度の結婚生活や、子どものことも掘り下げる。音楽の天才ゆえに欲しいものが全て与えられ、何が大切かということがわからない憐れさが伝わる。チェットのボーカルが全編で流れるが、このあたりになると歌さえウソくさく思えてくる。
関係者インタビューで登場する愛人が、シドアンドナンシーのナンシーみたいなやつだった。この女もボーカルで、チェットの音楽性に惹かれて親密になってる。チェットをオトコとしては舐めくさって、薬物を与えたりしてる。悪徳マネージャー的な立ち位置とわかる。しかも、この女の歌がヘタクソ。
ラストになって、この撮影の時のチェットが57歳と明かされる。薬物と歯の影響で70代にみえる。
映画撮影の感想に答えるチェット。
「あまり、できない経験だから楽しかったよ」
冒頭のオープンカーのカットやスタジオでの歌唱シーンがこの映画のためのフェイクドキュメントだったのか。
冬の日の陽だまりのような独特のチェットのボーカルが胸を刺す。
「ワルで厄介、でも素敵」。そんなチェット・ベイカーのリアルが堪能できる作品
58歳で謎の死を遂げた異能のジャズミュージシャン、チェット・ベイカーの最晩年を追ったドキュメンタリー。
チェットの歌声もトランペットの演奏も、聞いているうち知らず知らずに堕ちる。
これは自分だけの感覚かも知れないが、ほかのジャズを聴いてもマイルズやコルトレーン(逆に覚醒させられる)、同じウエストコーストのアート・ペッパーやジェリー・マリガンらの曲では体験できない感覚。
度重なる女性遍歴や生涯縁を切れなかった違法薬物に溺れるなか、ホーンを吹くために大切な前歯をチンピラに折られ、ジャズ界のジェームズ・ディーンと持て囃された若き日の美貌もやがて実年齢以上に劣化する。
それでも最後まで失わなかった唯一無比のヴォーカルの魅力が、自暴自棄の挙げ句の自業自得ともいえる彼の末路を悲劇として美しく縁取る。
お気に入りのドラッグを訊かれて臆面もなく「スピード・ボール」と答える彼を見てると、マスコミに「自分で稼いだカネでクスリをやって何が悪い」と毒づいたという逸話も本当なんだろうと思えてくる。
チェット・ベイカーとは、ただの老いぼれジャンキーだったのか。それとも神の歌声を持つ堕天使なのかーー。
作品の冒頭と巻末で『オールモスト・ブルー』が効果的に使われているのに、作品のタイトルは『レッツ・ゲット・ロスト』。
撮了後の主役の死を受けてのタイトル変更だったのかも。
作品中では「一緒に逃げ出そう」と翻訳されていたが、破滅的な生き様や突然すぎる他界を振り返ると「ずらかっちまおうぜ」の言い回しの方が彼に相応しいような気もする。
家にレーザー・ディスクがあるが一回観たあとプレーヤーが故障し、製造から10年過ぎてて修理してくれないし新機種も発売されないのでもう観られない。半永久的に使えるメディアなんて宣伝してたのは何だったんだ。
その後、国内ではDVDもBRも販売されずじまいだった本作は、自分にとって幻の作品。リバイバル上映なんて、望外の僥倖。正直言って気持ちが昂り過ぎてて上手くレビューがまとまらない。
今回の4Kレストア上映に併せて新刷されたパンフレットによればサントラCDも発売されるみたいだし、映像ソフトのリリースも期待していいのだろうか。
監督のブルース・ウェバーのスタイリッシュな映像も素晴らしいが、断片的にしか曲を使わないジャズのドキュメンタリー映像が多いなか、丸ごと聴かせてくれる曲を幾つも使用しているのも作品の魅力。
『ブルーに生まれついて』(2015)でチェットを演じたイーサン・ホークの歌唱に感動したという人たちにも、本作を観てリアルなチェット・ベイカーの魅力を感じ取って欲しい。
自分が観に行ったのは土曜の昼間なのに、観客は自分も含めたったの6人。
1週間で打ち切りになる可能性もありそうだけど、せめてあと2回は観たい。
オールモストブルーは、感動的だ。
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