「この映画は北野武につながっている。」レザボア・ドッグス 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画は北野武につながっている。
タランティーノが素晴らしい監督であるのならば、その長編第1作である、この作品も素晴らしいに違いない。文学や映画の分野では、その第1作に、作家の全てが現れるからである。私は、彼の作品の中では、「イングローリアス・バスターズ」が好きだ。彼の作品には、彼、独特の筋立てがある。
1991年に発表されたこの「レザボア・ドッグス」では、6人の男たちが、ジョーとエディの親子に指示されて、LAの宝石問屋を襲撃する。8人という主要人物の数は如何にも多いが、二つの工夫が凝らされている。一つは、6人がホワイト、オレンジなど、6つのカラーで呼ばれたこと。日本人の観客は特に助かった。外国人の名前を一回で覚えるのは難しいから。それにしても、一人一人の性格を示す必要があり、一見、全く意味のないような猥雑な会話が続いたダイナーでの朝食の場面が使われた。6人のなかで、ジョーとエディに一番、信頼されていたのは、ブロンドであることが後から判る。もう一つは、襲撃後、新たな登場人物が一人加わるが、見分けるのは簡単で、一方、襲撃者は二人、減っていたことだ。タランティーノ自身が扮していたブラウンと、ブルーがお役、御免となる。
この映画では、6人がダイナーから出かけたと思ったら、宝石問屋での襲撃場面はすっ飛ばされ、いきなり集合場所の倉庫へと移る。以降も、時間的な経過は自由に入れ替えられ、かつカットされる。
一言で言えば、この映画は、無類の映画好きによる「インディーズ」なのだろう。直接的には、香港ノワールと日本のヤクザ映画の影響をまともに受けている。その背景には米国の犯罪映画を源流に、フランスのゴダールらのヌーヴェル・ヴァーグと、メルヴィルらのフィルム・ノワールが存在する。ビデオ店の店員に過ぎなかったタランティーノは、若い頃、これらの映画を見まくっていたに違いない。彼の映画では、ヌーヴェル・ヴァーグのスピード感や、フィルム・ノワールの持つクールさはやや薄れ、その分、香港ノワールやヤクザ映画から来た残忍さは目立つ。この映画の「レザボア」という題名からも、フランス映画へのオマージュが感じられるが、おそらく言葉の響きだけを取りたかったのだろう。
この映画には、明らかな後継者が存在する。それは北野武だ。ただ北野には、タランティーノの持っていない、日本映画から来た「静謐さ」がある。北野が、今でもそれを大事にしているかどうかは、別の問題だが。