「許されぬ愛の痛ましさを演じるロミー・シュナイダーの美しさの極み」離愁 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
許されぬ愛の痛ましさを演じるロミー・シュナイダーの美しさの極み
美しく悲しい愛の物語。“離愁”とは、別れの悲しみの意味だが、映画のラストはそれとは違って出会いの悲しみであった。再会することによって、かつての心の繋がりに全てを投げ捨てた男と女の、愛ゆえのどんな敵にも立ち向かう情念の強さが、痛ましくも美しい。フランス映画は、このような愛の物語でその実力を発揮する。ラストシーンにおけるアンナ役のロミー・シュナイダーの何とも知れぬ思いと心のこもった表情の美しさが、この映画のすべてを物語る。
この映画の魅力は、このシュナイダーの演技に負うところが大きい。ユダヤの血を引くアンナは、独りフランスに逃れ、避難する人々を乗せた列車で偶然出会った妻子ある男性を愛してしまった。この抜き差しならぬ状況で唯一の救いの愛に縋った運命的な悲劇が、鮮烈な印象として残った。この女性像と比較して、ラジオ修理工のジュリアンの描き方が曖昧なのが少し引っ掛かる。ジャン=ルイ・トランティニャンが渋い味で好演しているが、脚本にその原因があるようだ。妻子と一緒に列車に乗っていたにも関わらず、見知らぬ女性に深い感情を抱く事になったのか。浮気癖があるようには見えないし、それだけアンナの魅力の虜になってしまったというのか。確かにアンナの神秘的で品の良い感性豊かな美しさには、どんな男性でも魅了されるであろう。それを後押しするように、別の車両にいた妻子の列車は途中で切り離されてしまう。この脚本の作為が、ジュリアンの本気度を薄めている様に感じてしまった。
しかし、後半の展開は説得力がある。ジュリアンが二人目の出産の為入院していた妻を訪ねる間に、アンナは姿を消す。ふたりが別れて数年後にドラマが展開する。フランスはナチスドイツの占領下に置かれて、ジュリアンはナチスの秘密警察から呼び出しを受ける。レジスタンスとして活動していたアンナが、ジュリアンの妻と偽った証明をしていたからだ。このラストの見つめ合う二人のシーンは、傍観していても心苦しいし、切ない。とても映画的な表現であり、戦時下の愛の姿を切実に表現した名ラストシーンになっていた。
ロミー・シュナイダーの美しさが絶頂期の代表作の一本に挙げられるフランス映画らしい作品。
1976年 10月30日 池袋文芸坐