ラ・ジュテのレビュー・感想・評価
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映画の本質を見ることができる傑作
この作品が重要なのは、優れたSFであるとと同時に、映画というメディアの本質を提示している所にあると思う。
今作は、ナレーションと音楽、美しい白黒の静止画の連続だけで演技も活劇も台詞さえも無い。が、我々はこの映画に何かが不足していると感じるよりも、逆に情報が限られている故の豊さに驚くことになる。
イメージの連続とその編集によって物語を紡ぐ→これに一番近いメディア表現は日本の漫画だと思うが、そこに時間軸が足される事で実は映画というメディアは成立しており、それ以外は必要不可欠な本質的要素ではない、という事がこの作品から浮かび上がってくるのだ。
物語には現代の映画的なひねりもあり、映像としても無駄のない引き算の美学というか、白黒の象徴的な絵の連続であるがゆえに、普遍的で古びず、今もそのスタイリッシュさを失っていない。
SF,映画史における傑作であり、短編であるから見るのにも時間がかからないにも関わらず、一般的にあまり知られていない気がするので、未見の方は是非。
ちなみにこれも若い人は知らないかもなので一応メンションすると、テリーギリアムの12モンキーズという映画の元ネタである。そちらも私は好みの作品だが、作品の強度ではやはりラジュテが上だと思う。あと、クリストファー・ノーランは間違いなく今作と、「去年マリエンバートヘ」からの影響を受けているだろう。彼の作品群は娯楽作でありながら、こういった「映画における時間の編集」という彼の個人的な関心が常に盛り込まれている。
傑作
【地球を救うために、第三次世界大戦後の巴里の地下での過去と未来へ旅する実験をモノクロのスチールショットで描き出した作品。作品構成を含め、インパクト大なる作品である。】
未来でなく過去ではなく現在しか感じない
タイムリープSFの原点、個人的には『バタフライ・エフェクト』との共通点に身震いしました。
舞台は第三次世界大戦後のパリ。地表は放射能に侵され地下に潜った人類は地下に潜り戦争の勝利者が敗者を奴隷として支配していた。科学者は過去や未来から薬品やエネルギー資源を獲得するために奴隷を使って精神だけで時空を超えて移動する人体実験を繰り返す。被験者は死ぬか錯乱してしまいなかなか実用化が進まない中ある男が被験者に選ばれる。その男は戦前の少年時代にオルリー空港の展望デッキで見かけた美しい女性とそこで起こったある事件の記憶に取り憑かれていたことで時間旅行に対する耐性が備わっているとみなされたのだった。彼は何度も時間を遡る中でついに記憶の中の女性を見つけるが・・・。
セリフは一切なく、モノクロで撮影されたフィルムから切り取られた静止画を紙芝居のように綴る“フォトロマン”と呼ばれる手法で作られた映像にナレーションを被せたわずか27分の短編。彼女に会うために何度も何度も時間を遡る男、突然現れては消える男を少しずつ受け入れる女、刹那の逢瀬が積み重なる過程はとても美しい。国立自然史博物館に展示されている夥しい数の剥製に目を奪われたりしますが、一瞬だけ現れるカットに思わず息を飲みます。自在に時間を旅することが出来るようになった男の決意とその運命は確かに以降のタイムリープSFの根幹となっていることが見てとれ、本作を原案と明記した『12モンキーズ』を筆頭に『時をかける少女』、『ターミネーター』、『インセプション』、『テネット』、『ルーパー』、『プリデスティネーション』、『ハッピー・デス・デイ』シリーズといくらでも作品が連想できますが個人的に一番本作へのリスペクトを感じたのは『バタフライ・エフェクト』。愛する人に会いたい、ただそれだけのために命を懸けるその純粋さに胸を打たれました。
もう一つ個人的に目を奪われたのはタイトルとなっているオルリー空港の展望デッキの風景。本当はパイロットになるのが夢だった亡父がまだ幼い私を連れて行ってくれた伊丹空港の展望デッキの風景によく似ていました。その風景が自分の本当の記憶なのか、後年見せてもらったモノクロ写真が刷り込まれたものかは今となっては判然としませんが、その曖昧な感じもこの作品に似合っています。
作中の女性を演じているのはエレーヌ・シャトラン。余りにも美しい人ですが2020年に新型コロナで死去されていることを知り愕然としました。
写真による紙芝居、または、ナレーション付きのスライドショー
29分というショートストーリーのため、飽きずに没入できた。しかもSFである。第三次世界大戦を生き残った勝者は、捕虜を使い時間の穴で旅をさせ、未来に救済を求めるというものだ。しかし主人公となる被験者は少年時代の思い出に囚われ、なかなか抜け出せないでいる。
大戦前夜のオルリ空港で見かけた少女。過去への旅でも大人になった彼女との逢瀬を重ね、まるで夢の中に囚われるようになってしまう。実験は成功だとして、次は未来に送り、人類を救おうという試みなのだが・・・
タイムトラベルものとしても楽しめるし、過去の世界が夢と同じだと考えれば実現可能のような気もする。しかし、未来へ行くことはタイムパラドクスを引き起こすので難解。結局は、不条理なエンディングによってあれこれと考えさせられるのだ。
白黒で、しかも静止画というユニークな作品ながら、ヒロインがまるで動き出しそうな部分もある。夢を具象化した理想の女性。これが男のすべてとなり、未来人からの誘いも断ることになった。ひょっとして未来人が見せてくれた妄想だったのか、あるいは・・・と、ストーリーの秀逸さにも驚かされる。廃墟となった写真からしてもペシミズムの現れだったのか、明るさもほとんど感じられない。
第3次世界大戦後のパリ
価値はあるかもしれないが…
時間旅行
ムードたっぷりSF
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