「写真が魅せる、シンプルで多彩な表現。」ラ・ジュテ すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
写真が魅せる、シンプルで多彩な表現。
◯作品全体
ほぼ全編写真による作品。冒頭の空港のシーンから第三次世界大戦を語るシーンでは、一つ一つの写真がそのシーンを象徴するものとして、いわばビジュアルノベルゲームのイベント絵のような使い方に感じた。しかしその後の夢のシーンでは、画面はシーンの象徴ではなく主人公の目を通した夢の中の映像のように使われていた。
夢の中の動きは、必ずしも繋がり続けているわけではなくて、象徴的な表情やポーズ、画角だけが再生される。それは作中で強制的に夢を見させられている主人公だけではなくて、我々が夢を反芻するときも同じだ。それをいわば再現するかのような表現方法で、夢の中の物語を印象的なものにしていた。
写真による時間を区切った表現方法は、夢の中で訪れる「過去」という曖昧な舞台にも合致していたし、それもまた巧い手法だな、と感じた。現実パートも同じ表現方法にすることで「空想なのか、夢なのか」という境界線が薄れていく主人公の感情にも寄せられている気がして、それもまた良かった。
作中で唯一動画のカットがあった。彼女が眠りから醒める姿を見つめるカットだ。主人公にとって作中でもっとも幸福な時間として強調されているように感じた。そして夢の中で夢から醒めた彼女を見つめる主人公が、夢から醒めると科学者が見下ろしている顔を見る、という絶望的な構図。夢と現実の対比的な演出が巧い。
「時間の移動」をモチーフとした作品らしいラストも見事。悲しい結末はシンプルに映されるほうがより冷たく突き刺さる。倒れた主人公を一枚の写真で映した演出はその冷たさと合っていて、グッときた。
◯カメラワークとか
・モノクロって逆に古臭くない気がする。時代ごとの画質や色味、特効がボヤけるから画面に年代が出づらい。視聴後に調べたら初公開が60年代とわかって驚いた。
◯その他
・SFの要素も全然古臭くない。機械装置もほとんど映らないし、資源が枯渇した地下施設という舞台だから、ハンモックのベッドやアイマスクのようなシンプルな実験装置も馴染んでる。未来のパリの表現も抽象的だからこそチャチに見えない。