「タイムリープSFの原点、個人的には『バタフライ・エフェクト』との共通点に身震いしました。」ラ・ジュテ よねさんの映画レビュー(感想・評価)
タイムリープSFの原点、個人的には『バタフライ・エフェクト』との共通点に身震いしました。
舞台は第三次世界大戦後のパリ。地表は放射能に侵され地下に潜った人類は地下に潜り戦争の勝利者が敗者を奴隷として支配していた。科学者は過去や未来から薬品やエネルギー資源を獲得するために奴隷を使って精神だけで時空を超えて移動する人体実験を繰り返す。被験者は死ぬか錯乱してしまいなかなか実用化が進まない中ある男が被験者に選ばれる。その男は戦前の少年時代にオルリー空港の展望デッキで見かけた美しい女性とそこで起こったある事件の記憶に取り憑かれていたことで時間旅行に対する耐性が備わっているとみなされたのだった。彼は何度も時間を遡る中でついに記憶の中の女性を見つけるが・・・。
セリフは一切なく、モノクロで撮影されたフィルムから切り取られた静止画を紙芝居のように綴る“フォトロマン”と呼ばれる手法で作られた映像にナレーションを被せたわずか27分の短編。彼女に会うために何度も何度も時間を遡る男、突然現れては消える男を少しずつ受け入れる女、刹那の逢瀬が積み重なる過程はとても美しい。国立自然史博物館に展示されている夥しい数の剥製に目を奪われたりしますが、一瞬だけ現れるカットに思わず息を飲みます。自在に時間を旅することが出来るようになった男の決意とその運命は確かに以降のタイムリープSFの根幹となっていることが見てとれ、本作を原案と明記した『12モンキーズ』を筆頭に『時をかける少女』、『ターミネーター』、『インセプション』、『テネット』、『ルーパー』、『プリデスティネーション』、『ハッピー・デス・デイ』シリーズといくらでも作品が連想できますが個人的に一番本作へのリスペクトを感じたのは『バタフライ・エフェクト』。愛する人に会いたい、ただそれだけのために命を懸けるその純粋さに胸を打たれました。
もう一つ個人的に目を奪われたのはタイトルとなっているオルリー空港の展望デッキの風景。本当はパイロットになるのが夢だった亡父がまだ幼い私を連れて行ってくれた伊丹空港の展望デッキの風景によく似ていました。その風景が自分の本当の記憶なのか、後年見せてもらったモノクロ写真が刷り込まれたものかは今となっては判然としませんが、その曖昧な感じもこの作品に似合っています。
作中の女性を演じているのはエレーヌ・シャトラン。余りにも美しい人ですが2020年に新型コロナで死去されていることを知り愕然としました。