「わからん、何もわからん。さあ行こう・・・」ライアンの娘 おまつさんの映画レビュー(感想・評価)
わからん、何もわからん。さあ行こう・・・
Dリーン監督の名作の一つですが、テーマが壮大な他作品とは違いこの作品はアイルランドのとある田舎の村での不倫騒動という下世話な出来事を題材にしていています。人間の愚かさといった内面によりフォーカスした内容となってますが、迫力のある映像と贅沢な時間の使い方は他作品と同様、その中でのDリーンの卓越した繊細な人間模様と心理の描写は流石としか言いようがありません。格調高くてもこんな映画は今となっては興行収入も見込めずこの先も製作されることはありえないので、映画ファンなら是非見ておくべき貴重な一本だと思います。
私にとって最も印象的で衝撃的なシーンは民衆たちのローズに対する集団リンチ。大衆心理による暴力ほど醜くて恐ろしいものはない。数十年前に最初に観た時は、貧しかったその時代のはるか遠くの国の民度の低い民衆による仕業としてありえるのかな程度に捉えていました。が、今改めて観てみて、昨今のメディアでの不倫等のスキャンダルに群がるネット民たちの誹謗中傷が頭をよぎりました。全く無関係な人たちがよってたかってターゲットに向けて顔の見えないネットを通じて暴言を浴びせ、時には人の命を奪うことも。身近なところでは学校でのSNSを使ったグループでのいじめが日常茶飯事的に行われてます。時代や場所、手段が変わっても人間の本質ややってることなんて何にも変わっちゃいないんですよね。
アイルランドの美しくも哀愁のある風景とともに全体的に陰鬱な雰囲気のまま最後のシーンにつながっていく。そしてこのレビューのタイトルにあるのが映画の最期の最後に神父さんが発するセリフ。これがDリーンの結論なんだと思います。人生、結局そういうことだと思います。「正解なんてないんです。でも生きていく限り、きっと・・・」と個人的に解釈させていただきました。