「人物描写と観ている者に考えさせる構成が秀逸」ライアンの娘 根岸 圭一さんの映画レビュー(感想・評価)
人物描写と観ている者に考えさせる構成が秀逸
今作は名作『戦場にかける橋』のデビット・リーン監督による映画ということもあり、興味を持ち鑑賞。結論から言うと人物描写の奥深さと、台詞ではなく行動によって観ている者にストーリーや心情を考えさせる構成が秀逸だと思える映画だった。
主人公の女ロージーがいる村の住民は、小学生のやりそうないじめをしたり、結婚式後のパーティで羽目を外し過ぎたりとガサツで、民度が低い。ロージーの夫チャールズはまさに大人の男性といった佇まいだが、彼女には刺激が足りない。そんな中で出会った不倫相手のドリアン少佐は、彼女の周囲にいるどの男性とも異なるタイプだ。端整な顔立ちで、気品と色気がある中に優しさも感じさせる。そしてドリアン少佐はPTSDを患っているため、ロージーは側にいてあげなきゃいけないと、彼女の母性本能をくすぐる。そういった登場人物の対比によって、ロージーがドリアン少佐に惹かれる気持ちがよく分かる構成になっている。それを台詞ではなく行動で示しているシーンが多いのが、人間の機微をより感じさせる。
夫のチャールズも、村の顔役的な存在のコリンズ神父も魅力的だ。チャールズはロージーの不倫を知りながらも取り乱さず冷静で達観している。彼女に対して感情的になることも無い。それどころか気にかける優しさを持っていて、精神的に成熟した大人という印象を与える。コリンズ神父は人として常に正しくあろうとしている。厳しさの中に優しさや面倒見の良さがあるという、人間的な温かみのある人物として描かれている。このように人物描写がよくできていて、観ている者に印象を残す。
3時間超えの長編映画で、昔の作品ということもあり少し冗長さは感じさせるものの、内容はそれに見合って秀逸なストーリーだと思う。それを軽快な音楽に乗せて進めていく構成は、デビット・リーン監督らしさを感じさせた。