「ミソジニーという名の壁」欲望という名の電車 ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
ミソジニーという名の壁
Amazonプライムで鑑賞。
あまりに有名なタイトルですが、お恥ずかしながら舞台も含めて初めて観ました。
超おもしろかったです。
2020年の今見ると、ヴィヴィアン・リー演じるブランチがひたすら犠牲者にしか見えなくて、ただただ気の毒。
これまで数々の男の都合や裏切りで、狂気という壁の向こうに追いやられてきた女たちの無念が思い浮かびます。
理解者を装いながらつい男にほだされる妹は味方のフリした敵だし、世間体やホモソーシャルに負けるミッチも情けない。
それにしても冒頭からこっち、出てくる男の粗暴描写がほぼDVなんですが…誇張はあるにせよ、これを普通に観てたかと思うと震えます。
しかし人に説明するのは難しい作品ですね。
ジャンルとしては何だろう?
素晴らしいサントラですが、このスコアリングだとやっばり全体としてはホラー的に受容されていたのかなあ。
「ブルージャスミン」とか「天人唐草」とか、貧困な知識の中からも色んなタイトルが浮かびました。
もしウーマンリブ以降であれば、どこかの時点でブランチが反転攻勢をかけ、一端スカッとさせていたのかな。
でもそうならないことが確かな過去の記録であるし、そのモヤモヤ感こそが魅力でもあるのだと思います。
70年前からメッセージボトルを受け取ったような気分でした。
当時は、性的欲望を持たないとされていた女がひとたびそれを覗かせただけで大罪人(生徒は別として)のように扱われ、ついには街にいられなくなるほどのスキャンダルにされてしまったのだという。
そんな過酷な状況を、妄想とファッションのパワーで乗り切りうとするブランチはほとんど英雄であり、現代においてはむしろ最後の神だと言えるでしょう。
知的な文学少女と、傷つき疲れた女の両面を、声音の高低で使い分けるヴィヴィアンがものすごくよかった。
ヴィヴィアン・リーといえば気の強い圧倒的美女のイメージでしたが、この役ではそんなオーラもなく、かよわく弱々しい。
観ている間、ついつい今これを映像化するなら誰? と考えてしまい、浮かんだのは中川しょこたんと、マーゴット・ロビーでした。
まあもしマーゴットが大暴れしちゃうとこの魅力も雲散霧消しかねないので、ここはひとつしょこたん推しで。
時代が変わったとはいえ、今なお狡猾なダブル・スタンダードの板挟みになって苦しむ人はたくさん埋れているはず。
そしてブランチとスタンレーの間にも男女というだけでない、何層もの差別や格差のレイヤーがあり、単純な男女の力関係だけでもない。
「風と共に去りぬ」が配信から外されるような今だからこそ、再浮上されるべき作品かもと思いました。
ラスト、たとえ社会の裏側に追いやられても、ブランチが生きていることに少しほっとしました。ちなみに妹の決意は信用してない。