「永遠に残るもの」モーリス sonarさんの映画レビュー(感想・評価)
永遠に残るもの
ポスターはヒューグラント推しだけど、モーリス役のジェームズウィルビーの瑞々しさが心に残った。素朴で控えめな学生時代、友人に感化されて少し悪ぶってみる純粋さ、愛を確信した時の無邪気さ、自らの性に苦悩し影を帯びてゆく青年時代。
窓がとても効果的に使われていて、窓から忍び込んできたモーリスは愛を打ち明け、一方でクライヴは最後に窓を閉める。窓の向こうに見えるのは、真っ直ぐに自分を呼ぶ過去のモーリスの姿。おいでよという声に応えられなかった彼のこれからの人生はあまりにも長い。でも確かにあのとき彼らの心が繋がっていたことと、その記憶は永遠だ。
同性愛が描かれてはいるが、誰かと心を通わせたことがあり、それを失ったことがある人ならば、胸に迫るものがある映画だと思う。
クライヴがモーリスにそっと抱きつく姿は、友情と愛情のあいまいな境界のゆらぎがよく現れていて胸を締め付けられるし、モーリスとアレックのお互いを警戒しながらも惹き合っていく流れも緊張感と高揚が伝わってくる。
また、ケンブリッジ大学の当時の学生生活が美しく描かれているのも魅力だ。知的な会話、ふざけ合い、歴史ある校舎、授業での論争…。日本の明治の大学風景もぜひいつかこんな美しさで再現してもらいたい。
上流階級の暮らしぶりもリアルに描かれ、永遠にこの暮らしが続くと思っている彼らの背後で、南米へ移民するなど労働者階級が力をつけつつあり、時代のうねりを予感させている。
上流階級の彼らは使用人を対等な人とは思っておらず、ロボットかなにか、自分のために働いてくれる感情のない存在としていつも接している。
そんな人生を受け入れているわけではないことが、アレックの愚痴によって示唆されている。執事の彼はクレイヴに警告するためにあの話を持ち出したのだろうし、カーペットの泥でモーリスに昨晩何があったのかにも気がついたのだろう。
オープニングの先生の話と、後半の再会の意味がよくわからなかった。モーリスは先生に名前を聞かれ、とっさに「スカダー」と名乗るんだけど。。
「君の名前で僕を呼んで」に呼応するストーリーで、同時期に観られたことがとても幸福に感じた。