「3機のB17実機を使った航空機映画」メンフィス・ベル かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)
3機のB17実機を使った航空機映画
マシュー・モディーン主演。
実在の機体をモデルにした英米合作映画。
【ストーリー】
1943年、イギリス米軍基地に、ドイツへの戦略爆撃を行う部隊が配属されていた。
苛烈な欧州戦線に多数投入された通称"空飛ぶ要塞"B17爆撃機をかかえた、第8爆撃コマンド。
二十五回の任務を終えれば退役できる長期ミッションを、まだ達成した機体はなかった。
二十四回めの任務を終えた、被弾した事すらない幸運の機体"メンフィス・ベル"のクルーたちに、ドキュメンタリー映画のスタッフが戦意高揚作品の撮影を持ちかける。
「これが終われば、俺たちは英雄になれる」
浮きたつ十人のクルー。
だが、「牛乳配達(ミルクラン)」と呼ばれた偵察任務の予定だった最後の飛行は、その直前、急遽ドイツ戦線後方ブレーメンの軍事工場への爆撃に切り替えられてしまう。
基地での最後の待機。
十代〜二十代のクルーたちは、不安の中パーティで飲んだくれたり、歌ったり、詩を書いてすごす。
任務当日、新人たちを任され、フォーメーションの最後尾に配置されたメンフィス・ベル。
対空砲火に次々と落とされる味方機、雲霞のごとくまとわりつく敵機。
後方に位置していたメンフィス・ベルだが、先導機が被弾し、部隊を率いるリーダーとして、もっとも危険な先頭につく。
ついに目標上空にたどり着くが、天候が悪くターゲットへの爆撃は困難をきわめる。
撮影時に現存した三機のB17をすべて投入して撮った、記録としても価値がある映画です。
ターボチャージャーつきで、運用当時気密も与圧もない(空気うすいのに遮蔽ほったらかしの)航空機では行動することすらむずかしい高度を、長時間飛行できる性能を得ました。
ゆーて映画でも、高射砲での対空砲火は届くし、短時間なら戦闘機も格闘ふっかけててくるしで、この空飛ぶ要塞、言うほどヨーロッパお空の番長ではなかったんですね。
損耗率80%近いし。
「こんなアホな戦意高揚映画には出てやらん!」と青春オシャレF14トムキャット映画『トップガン』への出演を蹴ったマシュー・モディーンが、こちらの機体バチボコB17フライング・フォートレスには乗っちゃったという話も。
ストーリー自体は、B17戦略爆撃機での事故やエピソードを寄せ集めてつくったもので、ほぼほぼフィクションだそうです。
二十五回めの任務後も、普通に軍にはスルーされて、なーんもなかったとか。
この映画、サントラもいいんですよね。
中でもダニーボーイって曲、アイルランド系のお葬式なんかでよく歌われるそうで、アメリカ映画でもそんなシーンが散見されます。
部活の友だちと連れだってこの映画見にいったんですけど、あのメンツでカラオケ行ったらだいたいダニーボーイ歌ってたなあ。けっこうカンタンに歌えるんですよ、この曲。歌詞もカンタンで。
あとアメリカ人、本当にイェイツの詩が好きだなーって思いました。
アメリカ文学や映画でも、よく引用される、ウィリアム・バトラー・イェイツって文学者なんですけどね。
詩集は読んだこともない無学の自分ですが、なぜかこの人の『ケルトの薄明』『ケルト幻想物語』ってケルト神話の物語や評伝集持ってて、後から「ずっと昔に買ったこの本イェイツじゃん!」っておどろいたり。
第二次世界大戦欧州戦線を舞台にした、若者たちの命がけの青春映画。
搭乗員十人と、ちょっとキャラ多いんですが、B17実機での撮影は迫力ありますし、P51マスタングやドイツのメッサーシュミット(スペイン製)も本物が出てくるしお得ですよ。そんな価値観あるんだね。
おいしい缶詰めが手に入った一人の夜に、スモーキーなスコッチでもじんわり味わいながらどうぞ。