劇場公開日 1991年2月8日

「空戦もの戦争映画の屈指の名作」メンフィス・ベル あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0空戦もの戦争映画の屈指の名作

2018年11月23日
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B-17の爆撃隊を扱っている映画と言えば、言わずと知れた超名作にして有名な「頭上の敵機」
本作とおなじアメリカ陸軍第8空軍のお話
英国の基地から飛び立ち、激しい迎撃をものともせずドイツ本土への長距離渡洋爆撃に出撃を繰り返す物語だ
爆撃機隊が帰還して、何機戻ってきたのか基地の皆が総出で空を見上げて機数を1機づつ数えるシーンは全く同じだ
白黒かカラーかの違い位しか無いぐらい同じだ

しかし内容はかなり違う
サッカーでいえば「頭上の敵機」は監督の物語に対し、本作はピッチで走り回り、激しく戦う選手の側の物語になっているのだ

だから飛行シーン、戦闘シーンが格段に多く戦争映画好きなら大満足は間違いない
まず軍事ものとして嘘がない、考証がしっかりしており軍事マニアの目からも興ざめになる所はほとんどなかった
気になったのは護衛戦闘機がP-51ムスタングである点ぐらい
これは時期的に合わない、その新鋭機の配備はもう1年後のことになるはず
ムスタングなら航続距離が長く劇中の様に途中で燃料不足で引き返したりはしない
とはいえブレーメン上空の航空戦はその再現度合いで感激するほどだった
ドイツ側のBf-109の実機が飛び交うシーンは素晴らしいシーンだ

そしてまた青春物語として、サッカーや野球のチームのような10名の愛機メンフィスベルの乗組員達を描いている所が本作の特徴だ

だが、もったいないことにドラマパートが弱いのだ
この時期の損耗率は10%を越えていたそうだ
つまり10回出撃したら確実に撃墜されるという事だ
25回出撃記録とはそれくらいの幸運が必要であるという重みがある訳だ
前半は電話のシーンはじめそれを表現しようとしているのだが、その悲壮感がもうひとつ伝わって来ないのだ

また、これ程の若者達が戦ったのだと青春群像の形を前半にもって来ているのだが、10人のキャラの立ち方が不足しているのは否めない
なので生還したカタルシスもチームで勝利したのだという人間関係でのカタルシスとの相乗効果が今一つ不十分になってしまった
そこが残念なところだ

1962年のスティーブ・マックイーン主演の「戦う翼」は本作と同様の第二次世界大戦での米軍爆撃機隊の映画だが、本作に不足している部分がしっかりと描かれいるのでこちらも併せてご覧になることをお勧めする

とはいえ大変に楽しめる戦争映画であるのは間違いない
空を扱った戦争映画屈指の傑作だ

本作は実話でありその記録映画をあの巨匠ウィリアム・ワイラー監督が従軍して撮っている
ドキュメンタリー映画「メンフィス・ベル:空飛ぶ要塞の物語(Menphis Belle: A Story of a Flying Fortress)」
本作はこれを新たに劇映画としたもの
製作にウィリアム・ワイラー監督の娘キャサリン・ワイラーの名前が有るのが感慨深い

これを踏まえた上で、このあとの登場人物達の後日談も考えてみると面白い

乗組員達はこのあと米国本土に返り、クリント・イーストウッド監督の「父親達の星条旗」の様な戦時国債購入キャンペーンに駆り出されたかと思うと、これもまた色々な思いに浸れる

さらに戦後、故郷に復員したときの姿までも想像できる映画がある
しかも本物のメンフィスベルの記録映画を撮ったウィリアム・ワイラー監督の作品だ
それが「 我等の生涯の最良の年」だ
アカデミー賞9部門受賞作の名作
その作品で描かれる第二の人生がそれぞれに訪れると思うとさらなる感慨にひたれることだろう
冒頭と終盤に爆撃機が写るシーンもある
こちらもお勧めだ

このメンフィスベル号だが、完全にリストアされて、2018年5月17日からオハイオ州デイトンにあるライトパターソン空軍基地のアメリカ空軍博物館で恒久展示されているそうだ
正に伝説の機体だ

あき240