まぼろしの市街戦のレビュー・感想・評価
全18件を表示
こんなに綺麗になるなんて!
一部の映画ファンの間で密かに傑作として語り継がれてきたこの作品が、まさかこんな高画質で劇場のスクリーンで観られることになるとは!
なにせ昔出回っていたのは冒頭が切れているバージョンだったりして、それが堂々と流通していたのだから呆れる。
今観ると、精神病院の患者たちと戦争で人殺しをする人たちと、狂ってるのはどちらですかねというテーゼはいささか短絡的な気もするのだが、それでも動物園の猛獣と精神病院の患者たちだけが闊歩する町という設定のイカレ具合と、イマジネーションの豊かさには見惚れずにいられない。
もしかしたらクストリッツァの猛獣の使い方はこんなところから影響を受けてるのかもなんてことを考えられるのは、長い歳月を超えていく観直す特権なのかもしれない。
人間を嘲笑う重たい作品だが、鮮やかな色合いに心が救われる。
1966(日本は1967)年公開、フランス・イタリア映画。
【監督】:フィリップ・ド・ブロカ
【脚本】:ダニエル・ブーランジェ、フィリップ・ド・ブロカ
【原案】:モーリス・ベッシー
主な配役
【プランピック二等兵(ハートの王様)】:アラン・ベイツ
【コクリコ(王妃)】:ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド
【アレクサンダー・マクビベンブルック大佐】:アドルフォ・チェリ
【公爵夫人】:フランソワーズ・クリストフ
【エグランティーヌ夫人】:ミシュリーヌ・プレール
【ハンバーガー少尉】:マルク・デュディコール
【ヘルムート・フォン・クラック大佐】:ダニエル・ブーランジェ
※監督のフィリップ・ド・ブロカが、アドルフ・ヒトラー役で出演している。
1.子供の頃から何度も観た
本作を初めて観たのは、地上波の放送だったと記憶している。
淀川長治さんの番組か、はたまた、水野晴郎さんのそれか、増田貴光さんか、あるいは国営放送か。
※Wikipediaによると、1974年日曜洋画劇場らしい。
ということは淀川長治さんだ。
いずれにしても、複数回、地上波で観た。
戦争映画がとても好きだったので、
最初は肩透かしを食らった感じになったが、不思議な世界観に惹き込まれていく。
カルト映画に分類されることもある本作を、地上波で放送するのはなかなか良いセンスだ。
最近、改めてU-NEXTで観ることができた。
2.反戦のメッセージだけではない
◆平和の象徴である鳩(伝書鳩)を射殺したり、雑に扱う
◆暗号名:タラはフライが好き(codはからかう、騙すの隠語でもある)
◆教会でのニセ戴冠式
◆王妃になる女性の源氏名?はコクリコ(ひなげしの花言葉は思いやり、いたわり)
◆ハートの王様は、愛の象徴
人間が勝手に決めたシンボルや意味合い、儀式を笑いものにし続ける。
ドイツ軍とイギリス軍が、お互いに街の広場で規律正しく撃ち合って全滅するシーンあたりまで来ると、
本作の世界観を自分のものとして飲み込んでいるからなのか、
本当に鳥肌が立ち、背筋がゾクゾクしてしまう。
単なる反戦ではなく、人間の所業すべてを嘲笑う。
重たいメッセージだが、
色とりどりのコスチューム、小道具に救われる。
3.まとめ
全裸で鳩だけを持ち医療施設の前に立つ主人公。
子供の頃も、今も、
このシーンに心から安堵する。
コクリコの無垢な表情も素晴らしい。
これでいいのだ。
☆5.0
イエローのチュチュで綱渡り
純粋であるべき人間の、本当の姿とは、を問う。
良かった
あなたは、ハートの王様
邦題が、ちょっと。これでは戦争映画かと思ってしまいます。
フランス映画なので予告を見たら面白そうだったので、映画館に足を運びました。
これは、大人のファンタジーですね。
有名なカルト傑作らしい、私は全然知らなかったけど。
後から思い返してみて、いろいろ気づくところがありました。檻があいているのに出ていかないライオンとか。
街を出てどこに行くの?
究極の狂気とは?
衝撃的なラストに強烈な風刺を滲ませるカラフルでキュートな名作
こちらは第1次大戦が舞台。フランスの小さな町に駐留していたドイツ軍は町に大量の時限爆弾を設置して撤退することを決定、その情報を知った町の住民はそそくさと避難してしまう。町を奪還しようと目論むイギリス軍は通信を傍受して爆弾設置を知るが設置場所と爆破時刻が判らず、伝書バト係の善良な兵士プランピックに町に潜入し爆弾を解除することを命じる。町に入った途端にドイツ軍に見つかったプランピックは必死で逃走、ある建物に逃げ込むがそこは精神病院。見捨てられた町に取り残された患者たちは突然現れたプランピックを王と崇めてお祭り騒ぎを始めてしまう。
フィリップ・ド・ブロカ監督作品は『リオの男』は観ていますが正直そんなに面白い作品ではなかったので、名作と誉れ高い本作にノレるかどうか正直不安でしたがそんなことは全然杞憂でどこまでもカラフルで楽しい作品。精神病棟から解放された変わり者達が繰り広げるお祭りがとにかくキュート、世間の常識とはかけ離れた思考で奔放の限りを尽くす彼らにイギリス軍もドイツ軍も振り回される様がとにかくおかしいわけですが、なんだかんだの騒乱の果てに対峙する両軍の姿を見た彼らとプランピックが無言で胸に刻む教訓に強烈な風刺が滲んでいて胸を打たれます。冒頭にチラッとヒトラーが出てきたりするシャレも鮮烈、これは確かに名作。
プランピックと婚約させられる少女コクリコを演じているジュヌビエーブ・ビヨルドがメチャクチャキュートで、『リオの~』のフランソワーズ・ドルレアックもそうでしたが、フランス映画には不思議ちゃんがよく似合うなと思いました。ちなみに4Kデジタル修復版での鑑賞、とにかく映像の鮮やかさが別世界でした。
私はあなたのメンヘラではない
早稲田松竹にて「戦争のはらわた」との併映で4k版を鑑賞。
おとぎ話的な戦争コメディ。
コンパクトで観やすい。
こんな作品が、片田舎とはいえ街をまるごと使って撮影されていたり、出てくる精神病患者たちが終始ノリノリで歌ったり踊ったり、おフランスの余裕を感じる優雅な作品だと思う。
どことなく宮崎駿みも感じる。
本当に狂っているのはどっちか? などと大上段のテーマを振りかざすには、さすがに精神病患者たちのキャラクターが美化され、都合よすぎで現在進行形でメンタルが不自由な人には顔をしかめられそうだが、それでも自分もできるならこちらの側に入りたいなあ…と思ってしまう。
昔お世話になったスクールカウンセラーの先生が、精神病院の中にいる人たちと接していると、時に狂っているのは外の世界の方かもと思わされる、と言っていたのを思い出した。
本来の自己の姿に自然であること それは人間の本当の幸福の姿なのです
色々なオータイムベストの名画のリストの上位に必ず掲載されている作品にも関わらず、レンタルにも無く中古DVDも高額で取引されていた作品です
ようやく観ることが叶いました
それも4kリマスターの鮮明な映像と色彩、明瞭な音声、音響で堪能することが出来ました
これこそ名画座の果たすべき役割と劇場と関係者の皆様に感謝です
内容はもちろん正気であったのは果たして誰であったのか?です
ベトナム戦争の悲惨な状況に厭きていた70年代はじめの米国でロング上映になったのもむべないことでしょう
戴冠式で公爵が王に言います
世界は舞台であると
そしてあまりの狂気の果てに芝居は終わりだと告げます
人は誰しも自己の役割を演じて生きています
父として、母として、責任ある役職として、軍人として、あるいは娼婦として……
そしてその役割の中で自己とのギャップに苦しむものでもあります
あまりの過酷な現実が、あなたに求められる役割像が怪物のようになった時、あなたは耐えうる事が出来るのだろうかと問うてくる
そんな作品でもありました
本作を観てふと思い出したのは銀座や北新地の高級クラブで綺麗なホステスさんと疑似恋愛を楽しむお金持ちの紳士たちのこと
彼らがその財力で外車やマンションの鍵をプレゼントするという狂気
それは本作の物語とどこか通ずるものがあると思いました
そしてわかった気がしました
彼らはその狂気を楽しんでいたのです
その恋愛ごっこの狂気を完璧なものにするために散財をしていたのです
私たち普通の人間にはそのような散財をして人間性を保つだけの財力はあるわけもなく、いかにそのギャップのストレスに耐えるのか?
それが昔とは違うとても密度の濃い仕事を強いられている21世紀の現代人こそ求められていることではないでしょうか?
本来の自己の姿に自然であること
それは人間の本当の幸福の姿であるはずなのです
それが本作の現代における意義ではないでしょうか
戦争の狂気を祝祭の狂喜へ
奇想天外なアイデアに優れた戦争映画
大戦の最中、街全体が爆破されるために住民が逃げ出したのだが、精神病院の患者たちだけは街に残った。その患者たちが街を占拠したあとに、爆破を阻止しようとする一人の兵士と、何千もの敵軍の兵士たちが街に入り、てんやわんやの大騒ぎに...。
この作品は、物語の基盤となるアイデアの素晴らしいこと。そして演出に、戦争をする連中を馬鹿にしたかのような皮肉を込めた視線があること。そして、ストーリーテラーのような役割をする、街を救いにきた一人の兵士の存在、と、いろんな意味でメリハリの効いた内容なのが、この作品の面白さだ。そして、精神病院の患者たちを演じた役者たちが、製作当時のフランス舞台界の名優ばかり、という点も作品の恪をグッと上げている。
戦争映画でありながら、一遍の優れた童話のような、爽やかな読後感があるこの作品は、今一度再評価されてもいいと思う。
全18件を表示