劇場公開日 2019年9月6日

「選択が映し出す現代社会の姿」マトリックス エライさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0選択が映し出す現代社会の姿

2024年12月7日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

映画『マトリックス』の象徴的な問いかけ、「赤い薬(真実)」と「青い薬(偽りの安らぎ)」は、単なるフィクションの枠を超えて、時代の価値観を鋭く映し出す鏡となっています。

ある米国の大学教授が、この選択を学生たちに投げかけたところ、00年代初頭では圧倒的に「赤い薬」を選ぶ声が多かったそうです。真実を知りたい、現実を直視したいという意志がそこに感じられます。しかし、2017年にトランプが大統領に就任されるより少し前ぐらいから、「青い薬」を選ぶ学生が多数派となっているという話には、思わず考えさせられます。

SNSや検索エンジンのアルゴリズムは、私たちに“心地よい情報”を絶え間なく提供します。見たいもや聞きたいものを表示させる。その結果、現実との乖離が進み、安らぎに身をゆだねる傾向が強まっているのかもしれません。これが個人の選択にとどまらず、選挙結果や世論の動向にも影響を与えているのだとしたら、その重みは計り知れません。

『マトリックス』の問いかけは、単に映画の中の哲学にとどまりません。いまや情報に囲まれた私たち一人ひとりの選択の在り方、そしてそれが作り出す未来への警鐘として、ますます重要な意味を持つものになっています。この映画が20年以上経った今も色褪せず、むしろ深みを増している理由がここにあるのではないでしょうか。

赤か、青か。どちらを選ぶのか。その問いにどう向き合うかで、私たち自身の「現実」が形作られる時代が来ています。

エライ