マトリックス : 映画評論・批評
2020年4月28日更新
2019年9月6日よりロードショー
※ここは「新作映画評論」のページですが、新型コロナウイルスの影響で新作映画の公開が激減してしまったため、「映画.comオールタイム・ベスト」に選ばれた作品(近日一覧を発表予定)の映画評論を掲載しております。
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“アニメのような実写”を実現させたサイバーパンクアクション
ある時期から、ハリウッド映画が日本のアニメの表現を上手く取り入れるようになってきた。予算は太刀打ちできないけれど、匠の技では負けていないと思っていた秘伝のスープが分析され、ハリウッドスケールで“アニメのような”夢の映像が続々と実現されていく。その先駆けのひとつが「マトリックス」だったように思う。
製作のジョエル・シルバーは企画当初、監督のウォシャウスキー兄弟(現・姉妹)から日本のアニメを見せられ、「(これを)実写でやりたい」と言われたとメイキングで語っている。日本のアニメのほか、カンフー映画(ユエン・ウーピンが振付師として参加)、ジョン・ウー監督作品(2丁拳銃&トレンチコート)など彼らが好きなものを贅沢にちりばめ、徹底して格好いい絵を見せることにこだわった。
銃弾が飛びかうなか、カメラが被写体のまわりをスローモーションでぐるっとまわる「バレットタイム(マシンガン撮影)」は、本作で発明されたSFX。120台のスチルカメラと2台の撮影用カメラを用いたアナログな手法で撮影されており、1999年の公開直後はCMなど、あらゆる映像分野で「マトリックス」風の映像が氾濫した。それぐらいキャッチーでフレッシュな映像表現だったのである。
再見して見事だと思ったのは時間配分だ。全体の約4分の3を世界観の説明と物語のセットアップに使い、ネオとトリニティが捕らわれたモーフィアスを救うラスト30分にアクションシーンを集中させている。この30分に「マトリックス」といえばあのシーンと思いつく名場面が凝縮されていて、ケレン味満載の銃撃戦やワイヤーワークを駆使した格闘、ヘリコプターを使った大アクションが続く。
観客はネオと同じ視点で“マトリックス”の秘密を知り、救世主として力を覚醒させる彼に自然と感情移入する。そして鑑賞後には、ブルース・リーの映画を見たあとのような高揚感にひたることができるのだ。
(五所光太郎)