「巷の評判は信用ならないの典型ですな。」ヘカテ osmtさんの映画レビュー(感想・評価)
巷の評判は信用ならないの典型ですな。
巷では伝説的名作ということらしいが、主演の二人には殆ど魅力を感じることも無く「本当に名作かぁ?」という懐疑心もあり、特に期待もしてなかったのだが、映像美の方は何か良いものありそうだったので観てみた次第。
オープニングの晩餐シーンの流麗な流れからタイトルがアップされ、場面が一転して、真っ赤な救命浮き輪のクローズアップ(明らかに色欲に溺れる暗示)が映し出され、ディオールの白いスーツで主人公が現れるという、この一連の流れは意外に予想以上で「何気に傑作なのか?」と少し期待してしまったのだが…
結果としてはホントどうでもいい陳腐なメロドラマであった。
ただ、それはあくまでストーリー展開の方であって、予想通り冒頭からの映像は本当に素晴らしく名手レナート・ベルタの流麗なカメラワークは、まさに一流の職人技。どれも構図が素晴らしかった。ラウール・ヒメネスが担当した美術の方も本当に素晴らしく、画面に現れてくる見事な配色のアレンジが、これまた一流の職人技だった。
そしてカルロス・ダレッシオの音楽の方も、これまた素晴らしく良かった。
蓮實重彦が絶賛していたシーンも間違いなく名シーンで、白い壁に二人の美しいブルーの影が浮かび上がり、その直後に女のショールがバサっと階段に落ちて… そのまま情事に耽る男と女…
確かにあれを見るだけでも、この映画を観る価値があるとは言える。
し・か・し・だ!あまりにストーリーが陳腐すぎる。
あれなら20分くらいの短編にした方が、よっぽど良かった。
甘やかされ育てられたであろう良いトコの坊ちゃん風のダメダメな外交官が辺鄙な国に左遷させられ、女に対する未熟さゆえ、ただただ振り回される話なんか、ホントどうでもいい。
破滅型というほど奈落の底に堕ちていくような凄みがある訳でも無く、女の方もファムファタールというほどの魅力ある訳でも無く、演じたローレン・ハットンそのまんま、モデル崩れの「それ風」を演じている女にしか見えない。
「モロッコ」のオマージュもあったかと思うが、ファムファタール演じるなら、やはり、デートリッヒくらいの謎めいた雰囲気はないと。
ローレン・ハットンだとチョットどころか、だいぶ卑近な感じになってしまう。
ひょっとしたら、シュミットは、あえて捻くれた皮肉を込めて、卑近なイメージのファムファタールに、ストーリーの方も、あえて陳腐なメロドラマにしたのかもしれないが、もし実際そうなら、それこそホントどーでもいい企てだ。
そして、ローレン・ハットンといえば、インタビューでも、大のセックス好きを公言しているのだから(良くも悪くも、いかにもそんな顔だ)、絡みのシーンは全て本番で撮影すべきだったのだ。殆ど喘ぎ声さえ出さない不感症のような女の本性を知りたくて夢中になる設定より、やっぱり派手にスケべにヨガる肉食系の女に翻弄されてしまう方が「ヘカテ」のイメージにも合う。シュミットの趣味とは(ダジャレじゃないよ)合わないかもしれないが…
ともかくあの女では、ヘカテーいうほどの凄みが無い。
あと、オマージュといえば、あの少年がレイプされるシーン、あれは「アラビアのロレンス」のオマージュだろうが…
配給会社も映画館の方も、あの名作の(と一応は言われている)「アラビアのロレンス」でOKなら問題ないっしょ!と思ったかもしれないが、ああいうのは予めアナウンスは必要だろ。見たくないヤツは見たくないのだ!ということは、つくづく良〜く理解して欲しいところだ。
とまあ、色んな意味でダメダメな部分を含んだ映画だったが、あえてダメな映画を観たいという方、特に画面や音楽の方はバッチリ素晴らしいのに、ストーリーがダメダメな映画を観たいという奇特な方には、間違いなくオススメの一本だ。