劇場公開日 1984年2月25日

「お気楽なアクション映画のはずだった しかし、ひさびさに観ると色々考えこんでしまう映画になってしまっていた」プロジェクトA あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0お気楽なアクション映画のはずだった しかし、ひさびさに観ると色々考えこんでしまう映画になってしまっていた

2021年6月23日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

アクション映画の金字塔
こんな映像は、もはや香港でも撮れないだろう
超絶的なアクションシーンの連続だ

コロナ禍の鬱屈もいつ果てるともなく続いている
東京オリンピック開催に向けての騒動のグダグダが毎日連続してもう本当に嫌気がさしてしまう
そんな中、本作を観ればその間だけでもスカっとすること間違いなし!
そんなお気楽な気分でこの香港産の世界的名作アクション映画を観るはずだった

しかし、ひさびさに観ると色々考えこんでしまう映画になってしまっていたのだ

本作は1983年の年末に香港公開
日本では翌1984年2月の公開
その1984年の12月に香港返還は決まったのだ
本作公開のちょうど1年後のことだったのだ

香港は1842年の第1次阿片戦争で英国に割譲され、1898年にはその領域が拡大され99年間の租借が決まった
だから返還決定はその99年が過ぎようとしていたのだから当然のことだ

本作の時代は1900年頃のようだ
だから香港が割譲されて60年がすぎ、さらに拡大された領域も99年間の英国の租借が始まってしばらくした頃が本作の設定年代になる
だからその辺りの海賊退治が物語になるわけだ

本作には英国領香港の英国人総督が登場する
陸上の警察も海上警察も英国風の制服で司令官はこの英国人総督の配下になる

中国の視点で観ればどうか?
もちろん面白い訳がない
自国の領土が他国に掠めとられて、他国の人間に現地警察が忠誠を誓っている物語なのだ
だから中国からすれば、香港の返還は当然のことだ
本作を観れば香港の「回収」は急がねばならない、やり遂げなければならないことだと考えてしまう映画なのだろう

本作公開から14年後の1997年7月
香港は約束通り中国に返還された

しかし守られず反古にされた約束もあったのだ
それは何か?
返還にあたっての交渉において、中国は2047年までの50年間は一国二制度を維持すると約束していたのだ
つまり香港の民主的な自治制度は2021年の時点でも、あと26年は維持されるはずだった

その約束が今年破られてしまったのだ
香港返還から24年
本作の公開からならば38年
2021年、香港で何があったのか
そのことは報道で世界中の誰もが知ることだ

もともとは一つの国、自国民のことだ
中国からすればそんな約束など守る必要など無いと言うことだろう
現によその国があれこれ偉そうなことを言うなという主張をしている

しかし香港の住民達がなぜあのように必死で自由と民主主義の維持を求めていたのか?
なぜ中国は執拗に香港の自由と民主主義を消し去ろうとしていたのか?

そこを考えてしまうのだ

東洋の盟主と自ら認ずる誇り高い中国が、自国の領土と国民を西洋人の支配下に180年も置かれ続けたその屈辱は彼らからすれば耐え難いものだったことは日本人でも容易に想像できる

しかし自由と民主主義は別の話だ
本当は大陸全土の中国人民14億人が求めているもののではないのか?
1989年6月4日のあの日、天安門に集まった数千人の人々はそれを真剣に求めていたではないか

それが人類の文明の進歩の自然な姿ではないのか?
中国もまた然り
50年もすれば共産主義の中国でも自由と民主主義の国に変わっていると英国も香港の人々も、世界中が勝手にそう思い込んでいたのだ
自明のことだと信じ込んでいたのだ

しかし中国が香港にしたことは、自由と民主主義を否定して旧来の中国の価値観に引き戻して塗りつぶそうとしていることだ
天安門では自由と民主主義を求めた数千人の人々は、中国共産党の指令で虐殺されてしまったのだ

いま香港に起こっていることはそれだ
血が流れていないだけで、自国と民主主義は虐殺されているのだ
それでは中国も香港も本作の劇中の海賊のアジトになってしまう
あの海賊の島の牢獄は香港の民主主義活動家が閉じ込められていた監獄となにも変わらない
だから香港の人々はあれほど抵抗したのだ

しかしもはや遅い
香港は「回収」されてしまったのだ

もはや、こんなお気楽なアクション映画も撮られる事もないだろう
単にジャッキー・チェン達のようなアクションの天才達の後継者がいるいないとかの話ではない

自由な精神がなければ、文化も芸術も娯楽も生気を失ってしまうのだ
こんな自由な映画はもう香港では撮れないのだ

香港へのプロジェクトAは間に合わなかったのだ

あき240
NOBUさんのコメント
2022年1月31日

今晩は
 素晴らしきレビューであり、昨晩私が久方ぶりに今作を鑑賞し終わった時とほぼ感想を記されていたので。
 一国二制度を蹴散らして、強硬に香港を支配下に置こうとするプーさんの最近の”ちゃらちゃらした芸能人は・・”と強い規制を掛ける中国の姿勢を見ると、香港映画界の行く末が本当に心配です。
 カンフー映画の行く末に暗雲が立ち込めていると思います。
 文化を否定する国に未来は無いと思うのですが、今やアメリカ、ロシアと並ぶ大国ですからね。では、又。あ、返信不要ですよ。

NOBU