「粋な映画」プロヴァンス物語 マルセルのお城 雨音さんの映画レビュー(感想・評価)
粋な映画
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『マルセルの夏』の方と違って、こちらの冒頭は、少し物憂げでロマンチックな旋律が流れる。
その通り、人生の哀愁を感じる内容だった。キラキラしていたときが眩しく描写されているからこそ余計に感慨深い。
この一家は、多少のつまづきがあっても、ずっとキラキラを続けるのだろう、と思っていた。
ところが…自然の中に据えられたひとつの素朴なテーブルに皆が集い、暖かい灯りのもとで、気持ちよく酔い、くったくなく笑い、いつまでも語り合う、その天国のような、キラキラした時は永遠ではなかった。
その時は何気なく当たり前に楽しんだひとときが、いつのまにか二度と体験できない最も貴重な想い出となる。そして、あれは奇跡や偶然だったのだと後で気付く…。誰にでもあることだ。
母親の笑顔はすてきだった。
母親に対するマルセルの愛情は、所々で伝わってくる。『マルセルの夏』の方での、優雅な仕草で水を口にする美しい母の横顔を見つめる眼差し、歩きにくそうな母に運動靴を差し出す気遣い。
そして赤いバラの花束を抱えて少女のように動揺し戸惑う母も思い出としてある。
(美しい運河沿いに家族が通り抜けるシーンは面白すぎて、個人的にはめちゃくちやツボにはまった)
母に対する心境の説明だの、亡くなった母に心で語りかけるだの、そんな野暮なシーンはない。でも伝わってくる。
粋な映画だと思った。
やはり原題のとおり、『マルセルのお城』ではなく、『母の城』のほうが私にはストンとくる。
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