「ダブル・スタンダード」プライベート・ライアン odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
ダブル・スタンダード
本作はフィクションだが後に軍の規定になったSole Survivor Policy(兄弟全員戦死にならぬような特例措置)に関係した幾つかの実際の兄弟(1942年サリバン兄弟5人全員戦死、ニランド兄弟、ボーグストロム兄弟ほか)の実話がベースになっている。世論緩和のために政治家のやりそうなこととか、他人の犠牲はいいのか、命に重みは付けられるかなど批判の声が聞こえてきそうだ。実際、使命を受けた部隊の中でも葛藤が絶えない。誰もが納得できない気持ちでいることは理解できる、冒頭20分の手持ちカメラでのリアルな殺戮シーンを見せられた後では尚更だ。
俯瞰して観ればドイツ軍と死闘を行っていたのはソ連、第二戦線を敷いてドイツ軍の兵力分散が必要だったのだが米軍の参戦はドイツ降伏後に欧州がソ連の配下に染まることへの懸念、政治的意図だった。自由・人権を唱えながら有事となれば兵は消耗品、駒にすぎない、国の命令は死刑宣告に等しい、このダブルスタンダードこそが元凶なのだろう。
勇猛なミラー大尉(トム・ハンクス)は部下にも高校教師であったことを伏せていたのはこの自己矛盾、葛藤に思える。クライマックスの戦いの前にピアフの「暗い日曜日」が流されるのもシュールだ。久しぶりに観直してみて感じたのだがスピルバーグの凄いことは直接話法でなく映像、エピソードを通じて観客の意識に再投影させることで真意を伝える才能なのだろう。
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