「クセになる珍味」不思議惑星キン・ザ・ザ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
クセになる珍味
自国を風刺する場合、国によってはなるべく歪曲しなければならない。粛清されてしまうから。
現代でも中国などは規制が厳しい。日本のようにエロ、グロ、ドラッグなどの規制ではない。言論の自由が規制されるのだ。
最近観た映画だと、ベトナム映画の「走れロム」が規制されて中々上映できなかったときいた。古いところだとスペイン映画の「ミツバチのささやき」などもある。
昔から今でも政権や国への批判が難しいところもあるのだ。それがソビエト連邦ならば?ちょっと想像しただけでもヤバそうだと分かる。
そこで作られたのが本作「不思議惑星キン・ザ・ザ」であるが、その隠し方がぶっ飛んでる。何をどう考えたらこの作品になるのか。
高校の文化祭でももう少しいいもの作れそうなほどのチープなセット。わけのわからない物語。そして、わけのわからないキャラクターと、わけのわからない風習。
これらはすべてソビエトの風刺であるが、一番最初に言う「資本主義国か?」のセリフだけで躱しきる強引さもある。
わけのわからない星でわけのわからないことを見せられて、ソビエトでヒットしたことを考えても当時のソビエト連邦の人には丸わかりのソビエトへの皮肉を誤魔化しきった手腕。そして何より、そんなことがわからなくても一定の娯楽性を有していることに驚く。
もちろん、爆笑の傑作、とまではいかないが、上等なクセになる珍味なのだ。
現代のロシア人監督アンドレイ・ズビャギンツェフの作品(「裁かれるは善人のみ」など)を観ても思うのだが、国や政府を批判していても、母国を愛しているのだなと伝わってくる。批判の先に愛がチラチラ見えるのだ。
本当に嫌なら国を出ればいいのにそうしないわけだし、規制を受けても自国で映画を作ろうとする愛国心があるんだな。もちろん本作の監督であるゲオルギー・ダネリヤのことだ。
邦画で国や政府への批判的な作品だと、愛国心など欠片も感じなくて、ただ破壊したいだけなんだなと考えてしまうが、この点において本作は全く違って好感がもてる。
近々観る予定の「クー!キン・ザ・ザ」も楽しみだ。まだ観ていないので断言できないが、ソビエト連邦からロシアに乗り換え再構築したある種のセルフリメイクだ。
この想いは、ただ「クー!」のポーズが見たいだけかもしれんが。