フォレスト・ガンプ 一期一会 : 映画評論・批評
2020年4月28日更新
2022年3月18日より角川シネマ有楽町、新宿シネマカリテ、シネ・リーブル池袋ほかにてロードショー
※ここは「新作映画評論」のページですが、新型コロナウイルスの影響で新作映画の公開が激減してしまったため、「映画.comオールタイム・ベスト」に選ばれた作品(近日一覧を発表予定)の映画評論を掲載しております。
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“走る男”が世界を変えていく! 数々の名言に彩られたアメリカ現代史のifストーリー
ブラジルにいた蝶の羽ばたきがテキサスでトルネードを引き起こす。風が吹けば桶屋が儲かる――世界を大きく変えていたものが、一見すると無関係のように思える力だったということがある。このパワーは人間にも備わっているが、偉人、哲人、著名人だけに与えられたものではない。世界中の誰もが等しく持っているものだ。1994年、スクリーンに登場した“走る男”の物語には、そんな奇跡の瞬間が溢れている。宝物のような1本。鑑賞後には、きっとそう感じてもらえるはずだ。
監督:ロバート・ゼメキス×主演:トム・ハンクスによる本作は、知能指数は低いが、誰にも負けない俊足とピュアな心をもった男フォレスト・ガンプの数奇な半生を描いた作品。苦難の幼少期、才能を見出された学生時代、生涯の友と巡り合う軍隊時代、会社設立、最愛の人ジェニー(ロビン・ライト)との日々。その人生を追体験していくうちに、フォレストの哲学に気づくはず。それは「人を信じ抜くこと」「“一期一会”の瞬間を決して忘れないこと」というもの。この2つの思考が、彼の人生を豊かなものにしていくのだ。
本作の特徴は、1950~80年代の史実が盛り込まれている点だ。その歴史的背景に「もしもフォレスト・ガンプが関わっていたら」というフィクションが介在していく。つまり“アメリカ現代史のifストーリー”となっているのだ。エルビス・プレスリーとのセッション、歴代の米国大統領との交流、ジョン・レノンに与えた影響、スマイリーフェイスの誕生秘話など、実にユニークなエピソードばかり(ある“果物会社”への投資は「今だったらどの位の儲けが…」と考えてしまうはず)。ゼメキス監督が創り上げた夢想は、世界中の誰もが「フォレストだった可能性」を示しているのかもしれない。
背骨の歪みが原因で装着していた脚装具、アメフトのスパイク、軍靴、エビ漁で履く長靴、汚れていくナイキのスニーカー。フォレストの人生が“足元”に反映されている部分も見逃せない。「走れ! フォレスト! 走れ!」という言葉を受け、全力で時代を駆けるフォレスト。このエールのような名台詞が多数登場するのもポイントだ。「人生はチョコレートの箱のようなもの。開けてみないと分からない」「バカをするやつがバカなんだ」「前に進む時には、過去を後ろに置いていきなさい」。示唆に富む言葉の数々は、何度も思い返してしまうほど、心に深く刻み込まれるだろう。
(岡田寛司)