劇場公開日 1992年4月4日

「祝30周年、ギリアムの忘れがたい傑作」フィッシャー・キング 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5祝30周年、ギリアムの忘れがたい傑作

2021年1月30日
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気づけば、この映画が世に出てから今年でちょうど30年。奇想天外な作風で知られるギリアム監督だが、彼がこれほど「ドラマ」にフォーカスした作品を私は他に知らない。コミカルにもシリアスにも振り切れることのできるロビン・ウィリアムズの存在感もさることながら、それにしっかり呼応し手綱を握りしめるジェフ・ブリッジスの巧さも際立っている。特筆すべきは、多くの通勤客が行き交う地下鉄駅のコンコースが巨大な社交ダンスのボールルームへと変貌するシーン。リアリズムからファンタジーへの流麗な移り変わりが実に見事で、人々がすれ違いざまに手を取り合い、華麗なステップを踏み始める姿にうっとりしてしまう。押してダメなら引いてみればいい。その精神を実践したのかどうかはわからないが、少なくとも苦難続きだった当時のギリアムが従来と異なる方法論で新たな表現性を切り開いた、見事な人間ドラマ。何度も見たいし、大切に受け継ぎたい一作だ。

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牛津厚信