劇場公開日 2017年12月23日

「聖女ビリディアナ」ビリディアナ きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0聖女ビリディアナ

2020年6月15日
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鑑賞方法:DVD/BD

1961年ですからね、スペインとイタリアでの上映禁止もさもあらんです。
修道女の誓願には「清貧」が含まれています。太ももの露出やベッドシーンは禁忌です。

近年でさえ、下着歌手マドンナのデビュー作で「like a virgin」は物議をかもしました
マドンナとは「貴婦人」。大文字で書けばそれは聖マリアのことなのであり、
virginも定冠詞を付け、あるいは大文字で書けばそれも固有名詞としての聖マリアのことを指します。
ファンたちはその信仰文化のタブーに触れる“悪ふざけ”を受け入れる、そういうスリルを買ったのかと。

その聖マリアに仕えることを願い出て、全てを捨てて献身した修道女を、カトリックの国では特別の尊敬をもって尊ぶのであり、そのカトリック国でかくもあられもなき姿でシスターを撮ってしまえば、朴訥なスペイン、イタリアなど、信者の多い町々村々での上映は、それは無理というものでしょう。

( 日本人に分かりやすい喩えを考えれば、戦前、皇族女性が強かんされるような映画を撮ったならばどうなるか、官憲も民衆も黙ってはいない。そんな感じですかね)。
フランスでのカンヌ受賞は、同じカトリック国でもフランスがかなり醒めた立ち位置にあることを示してもいると思います。

ルイス・ブニュエルは「銀河」との衝撃的邂逅以来、僕にとっては特別の存在。
僕はキリスト教の学校で学びましたからあの映画の強烈な刺激は良薬であり、劇薬そのものです。
王族と結びついて貴族の宗教に成り上がってしまったキリスト教界を、独特の切り口で告発して、2000年前の原始キリスト教への回帰を強く迫る“預言者的メッセージ”をブニュエルのスクリーンから感じるからです。

⇒「十字架から仕込みナイフが飛び出す」あのシーン。あれこそがブニュエルの毒。キリスト教会の膿をえぐろうとするナイフ!

前半の思わせ振りな姪の素振りや、叔父の倒錯行為は鑑賞者へのサービスであって、後半のビリディアナの新たな決断が映画の核です。
ビリディアナは結局修道女にはならない道を選択したけれど、貧民と共生するシェルターを作った。そして社会の底辺で見捨てられた人々と共にあったナザレのててなし子=イエスの生き様に倣おうとした、
ビリディアナはバチカンの支配からは自由であった。
・・それを世の聖職者たちや似非クリスチャン達はどう見るかを厳しく問うている。これはブニュエルの意欲作だと思いました。

後年の作「銀河」(1969)よりもストーリー性も大切にしてあり、鑑賞者への語り口を丁寧にしたルイス・ブニュエルの、初期の作風の優しさと配慮を感じますね。

ブリューゲルの絵画から飛び出してきたかのような貧民たちの登場は監督の常套。

モノクロですが、リマスター技術の高さには驚く映像の美しさです。

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僕の友人(女性牧師)が横浜の寿町のドヤ街に長年住み込んでいて、その街で生き、働いています。
ビリディアナですね。

きりん
KENZO一級建築士事務所さんのコメント
2023年10月11日

 きりんさんへ
ルイス・ブニュエル監督の「ビリディアナ」、イエスの生き様に関する、正に私が観たいような内容なのですね。
「ブルジョアジー…」や「欲望の…」等々、たくさんのブニュエル監督作品に接してきていたはずでしたか、「ビリディアナ」は未見でした。
残念なのは、きりんさんにとっての大切な「銀河」(実はこの作品は若い頃に観ているのですが、その内容は全く忘れています)共々、私にとって、現在は観る機会が失われていることです。
心に留め置き、チャンスを逃さないように、いつかは是非、両作品を観てみたいですね。
貴重な情報、本当にありがとうございました。

KENZO一級建築士事務所
kossyさんのコメント
2020年6月15日

素晴らしいレビューですね!
『銀河』は未見ですが、なんか惹かれてしまいます・・・
キリスト教をよくご存じのきりんさん。
奥が深いです!

kossy