劇場公開日 2023年7月28日

「見渡す限りのひまわりが象徴する色彩が徐々に失われていく冷徹なドラマ」ひまわり(1970) よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0見渡す限りのひまわりが象徴する色彩が徐々に失われていく冷徹なドラマ

2020年8月11日
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鑑賞方法:映画館

第2次大戦中のイタリア。アフリカ戦線行きを間近に控えたアントニオは12日間の休暇を得るために恋人ジョヴァンナと結婚し郷里で急ごしらえの新婚生活を謳歌していた。休暇が終わろうとした時どうしても別れられない二人は共謀、アントニオが精神に異常をきたしたと装って従軍を逃れようとするがあっさり見破られてしまい過酷なロシア戦線に送られてしまう。やがて終戦が訪れアントニオの帰りを待ち侘びるジョヴァンナは一人の帰還兵からアントニオが極寒のロシアで置き去りにされたことを知らされ単身ロシアに渡るが・・・。

初めて観る映画のはずなのに終始既視感に苛まれるのは映像の断片を物心ついた頃から様々なメディアで垣間見てきたこと、本作に影響を受けたであろう様々な後続作品を沢山観てきたこと、そして幾度となく奏でられるヘンリー・マンシーニの主題曲が脳裏に刷り込まれているからでしょう。50年前の映画ですが傷一つ見当たらないリストア映像の色彩がとにかくビビッド。タイトルロールに映し出されるひまわりの眩しさにいきなり心を奪われます。ジョヴァンナとアントニオの新婚生活はかなりコミカルで愛らしく、アントニオが勢いで作ったオムレツを巡るシーンはほぼショートコント。それゆえに徐々に色彩を失っていく物語とのコントラストが残酷なまでに際立っています。特に印象的なのは駅のプラットフォームで呆然と立ち竦むアントニオの背後に聳え立つ原子炉。戦争に振り回された者達を非常に見下ろすかのような佇まいが強烈でした。ソフィア・ローレンのはち切れんばかりのセクシーさは圧倒的で、本作を名作に押し上げたのは彼女の魅力に負うところが非常に大きいでしょう。個人的にはマーシャを演じたリュドミラ・サベーリエワの透き通るような美しさもまた魅力的でした。二人の美しさが鮮烈すぎるので、マルチェロ・マストロヤンニにはそんなに心を動かされませんでしたが、アントニオの右手の癖にイタリアーノの真髄を見た気がします。

よね