劇場公開日 1985年4月27日

「考えてみると実は革新的な映画なんです だからいつまでも色あせないし、面白いのです」ビバリーヒルズ・コップ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0考えてみると実は革新的な映画なんです だからいつまでも色あせないし、面白いのです

2021年6月29日
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鑑賞方法:DVD/BD

猛烈に面白い!
何度観ても、いつ観ても面白い
傑作中の傑作です

音楽を含めて大好きな作品です
冒頭の主題歌が有名ですが、テクノポップとファンクの融合したようなアクセルFという劇中曲も最高です
こっちの曲こそ80年代の空気を反映した本作のイメージにピッタリの名曲です
ポインターシスターズやパティ・ラベルの歌も挿入されていてこれも好きです

1984年公開
エディ・マーフィ23歳
既に日本風に言えばテレビのお笑い芸人として超人気者
映画には1982年の「48時間」でデビュー済み
単独の主演は本作が初

80年代の雰囲気が濃厚に充満しています
しかし当時をなつかしむだけの映画ではないのです
そして単にお気楽なコメディ映画というだけではないのです

考えてみると実は革新的な映画なんです
だからいつまでも色あせないし、面白いのです

まず黒人が主人公の映画であることです
もちろんそういう映画はそれまでに山ほどあります

1970年代にはブラックプロイテーションと呼ばれる黒人向けの低予算B 級娯楽映画が花盛りでした
有名な作品を挙げると「シャフト黒いジャガー」とか「スーパーフライ」、「コフィー」、「101番交差点」とかとかです
これらは出演者も監督も撮影スタッフも黒人なら、もちろん観客も黒人です
つまり黒人のコミュニティーの中で閉じていたのです

白人を中心に黒人を含めた全人種向けのハリウッド映画はごくごく少数しかなかったのです
ヒットしたものは1967年の「夜の大捜査線」ぐらいだけではないでしょうか?

本作はその「夜の大捜査線」から17年振りの黒人が主人公の全人種向けの映画で大ヒットを飛ばした作品なのです

その後はご存知のとおり、今では黒人が主人公の白人や全人種向け映画はもう珍しいことも全くないのです

本作は考えてみれば「夜の大捜査線」と構造が良く似ています
白人の町に黒人の刑事が乗り込んで事件を解決していくお話です
最初は非協力的な白人の警官も、黒人主人公の有能さと人柄に次第に心を開き、主人公と一緒になって犯人を挙げるのです

本作では主人公はデトロイトからやって来ます
デトロイトはモータウンの街
かって自動車産業の黒人の工員達が沢山住んで大いに栄えた都市です
だから黒人音楽の名門モータウンがその街で創業したのです
つまり黒人の大都市というイメージです
そこの刑事がビバリーヒルズという白人の街に乗り込む構図なのです

「夜の大捜査線」ではNY 市警殺人課のパリッとした頭の切れる黒人刑事が、南部の白人が支配する町で捜査する物語です

つまり有能で人柄に優れる黒人が、白人の町で悪を糺すという物語
そして白人もその姿にいつしか協力する物語
人種を超えた友情と融和、正義を成すためには白人も黒人もないということ
それがアメリカの理想なのです
これが本作のテーマなのです

劇中の主人公アクセル・フォーリーや、その幼なじみで冒頭に殺されてしまう白人のマイキー、ビバリーヒルズで久々に再会する白人娘のジェニーの3人は、みな同級生で27歳ぐらいの設定のようです

ということはこの3人が10歳の小学生の時は17年前の1967年です
あの「夜の大捜査線」が公開された年なのです
これは偶然なのでしょうか?

その10年前の1957年、彼ら3人が生まれた頃
アーカンソー州でリトルロック高校事件があったのです
白人と黒人の分離教育が違憲となり、黒人の子供達が白人の高校に入学が認められたにも関わらず街を挙げての反対運動が巻き起こった有名な事件

つまりこの3人は、人種分離教育を知らない世代なのです
新しい人種平等の世代なのです

黒人のアクセルは、白人のマイキー、ジェニーと本当に仲の良い幼なじみだったことを本作は明確に描いています

そしてこの3人が10歳の頃の1967年
故郷のデトロイトは大きな黒人暴動が合った年なのです
その原因は白人の警官が無実の黒人を不当に射殺したことでした

近年、アメリカを大きく揺るがしたBLM運動と原因は同じなのです

そして本作から27年も過ぎたのにBLM運動が必要になってしまったということを考えなければなりません

本作が高らかに謳いあげたそのテーマが27年経って、あきらかに後退してしまっていることが明確になったということです

だからこそ、今こそ本作を観なければならないのです

本作のような時代があったのだ
あの時代を思いだせ
なんで後退してしまったのだ
誰が後退させたのか?

このような思いで本作を観るべきなのです
スパイク・リー監督なら、何を甘いことを!と罵倒されるかも知れません
しかし、理想の姿が本作に描かれてあるのは間違いないのです

そしてまた、刑事もの映画のコメディを切り開いた作品でもあります

それまではダーティハリーみたいな映画が主流でした
本作以降、コメディの刑事ものが沢山出てきて、今では珍しくも何ともありません
本作が切り拓いた新しい地平なのだと思います

ジャッキー・チェンの「香港国際警察」は1985年の作品
ことによると本作に触発されて撮られたものかも知れません

楽しく、それでいて考えさせられる映画です
永遠の傑作です

いやいつの日にか、単にお気楽な娯楽映画だけの存在になるべきなのです

あき240