ハワーズ・エンドのレビュー・感想・評価
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20世紀初頭の英国社会
1910年に発行された文芸小説の映画化。原作は読んだことがないのだが、今日も見られるような相続騒動を中心に、当時の英国社会の階級毎の人々の気風や暮らし向きの違い、ロマン主義の影響、男性の勝手、女性の地位や姉妹の生き方の違い、生家への愛着など様々なことが描かれていて考えるところの多い話。さらに、実力のある俳優陣、美しい衣装とセットで、映像としても見応えがあった。
私としては…労働者階級のレン君が不憫だった。同じ生粋のロマンチストでも、ヘレンのように生まれが上流(中流貴族?)であれば、生きていけたであろうに。実業富裕層のウイルコックス家の長男の暴力が隠蔽されずにちゃんと裁かれたのにはホッとしたが、それでも親からの財産があり、名前、居所を変えればちゃんとやっていけることが示されていて、レン君がヘレンに言った台詞「君達と違って僕達は一度(社会の)レールを外れたら二度と戻れない」の台詞が効いてくるTT。でも、その長男の嫁に「可愛らしい子」と言わしめた彼の子供が、ゆくゆくはこの美しい家屋敷を継ぐ結末に、作者と制作陣の人道的配慮を感じた。
また、全てを丸く収める要となる存在がヘレンの姉マーガレット=女性であることをしっかりと描いているのは当時としては画期的だったかも。彼女は旧い女性の生き方にも新しい女性の生き方にも理解があり、一方で情に溺れることはなく聡明かつ寛容で、時代の繋ぎ手として完璧な女性に思えた。
Tragecomical Affairs at Haward‘s End(アガサ・クリスティ風に言うと、原作はフォスターだけど)
途中まではComedy(本来の意味での)だと思ったが、最後まで観て何と豊かな映画かという感想に変わった。デビット・リーンの端正さはないが、豊かな映像の中で滋味溢れる物語が紡がれていくところは正統英国映画の伝統が受け継がれている。物語もハワード・エンドという屋敷が受け継がれていく様を骨子としている。「インドへの道」でも描かれている様に、異質なものが出会うことにより、有るものは融合し、有るものは対立する様々な少ドラマが枝葉となる。同じ上流階級でも保守的なヴァネッサ・レッドグレーブと進歩的なエマ・トンプソンとの出会い。でも二人の間には友情が育つ。「インドへの道」でも活写された植民地からの搾取で富を築き上げたブルジョアのアンソニー・ホプキンズとエマとの結婚。庶民ながら詩と宇宙とを愛するレナードと父に輪をかけた俗物のチャールズ(二人は最後まで出会わないが、出会った途端に悲劇が起こる)。庶民のレナードが被害者になり、ブルジョアのチャールズが加害者になることで、皮肉にもハワード・エンドはエマを挟んで、上流階級と庶民との間には生まれたヘレン・ボナム・ガーターの娘へと受け継がれていく。現代に至るもまだ残るという英国の階級意識を肌身に感じないと100%理解出来ない世界だとは思うが、誠に豊穣な映画世界だということは理解できる。正統的英国映画だけあって俳優陣は揃って好演だが、やはりマーガレットを活き活きと造形したエマ・トンプソンがここではピカ一である。
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