劇場公開日 2023年4月7日

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「上映館に急げ!」薔薇の名前 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5上映館に急げ!

2023年4月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

舞台は、14世紀の北イタリアの山地に聳える修道院。教皇派(その頃教皇庁は、アヴィニョン)とフランチェスコ会(アッシジの聖フランチェスコを引き継ぐ清貧派)との討議に参加するために修道院に到着したバスカヴィル(イングランド)のウィリアム(コネリー)とその弟子メルク(オーストリア)のアドソ(スレーター)は、若い修道士の不審死を知るが、その解明を修道院長から依頼される。早速その調査にかかるものの、不審死は続く。その過程で、高台の修道院敷地から残飯を含むゴミが投棄され、貧しい農民がそれに群がるのを目にする(モンサンミッシェルを訪れた時のことを思い出した)。二人は、修道院の塔の下層階にある写字室に入り、この塔には膨大な書籍があるはずで、それが怪死事件の背景と気づく。両派の到着後行われた討議は不調に終わったが、教皇派の一行に加わっていた異端審問官ベルナール・ギー(エイブラハムの怪演)により、不審事件は異端者のせいとされ、魔女と断定された(アドソと親しい)農民の娘と共に、火炙りの刑を受けることになる。ちょうどその頃、塔の高層階にあった迷路のような文書館に入ることができた二人は、事件の真実を捉えたのだった。
一番気になったのは、その結末。エンドロールに、以下のラテン語の詩句が出てくる
stat rosa pristina nomine, nomina nuda tenemus.
「過ぎにし薔薇はただ名前のみ、虚しきその名が今に残れり」
その直前に老いたアドソのナレーションが流れる。初恋の村の娘のことを
She was the only earthly loved in my life. Yet, I never knew, no ever learned her name.
「生涯でただ一度私が愛した彼女の名前を私は知らないし、知ろうとすることもなかった」と聞き取れたが、この二つがタイトルに繋がることは判った。しかし、ラテン語の警句と台詞の意味するところは、相反している!
ラテン語の詩句はエーコによって書かれた原作にもあり、カトリックの「聖」の世界、教皇派とフランチェスコ会の向こうに見える。一方、アドソの台詞は映画にしかなく、現実の「俗」の世界、謎解き、ミステリー、ロマンの側。この二つの世界を、一つの映画の中で見せてくれた脚本、監督、製作に感謝したい。
傑作である。

詠み人知らず