薔薇のスタビスキーのレビュー・感想・評価
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フランス版「昭和電工事件」
本作は、評論子が入っている映画サークルの映画を語る会で、お題作品に選ばれたことから鑑賞したものでした。
本作を観て、すぐに思ったのは、「これは、フランス版の昭和電工事件だなぁ。」と思ったことでした。
レビュアーのみなさまにはご案内のとおり、1948年(昭和23年)6月に発覚した、復興金融金庫(現:日本政策投資銀行)から復興資金の融資を得るために、化学工業会社・昭和電工が行った政府高官や政府金融機関幹部に対する贈収賄事件が、それです。
(本作の中でも、スタビスキーの事件が発覚すれば政府が転覆するという話があったと思いますが、昭和電工事件では、相次ぐ閣僚の逮捕で、ついに芦田均内閣が総辞職を余儀なくされてしまった=倒れてしまったというのも、歴史的な事実です。「小菅拘置所には、この疑獄事件に関して、政界、財界の知名士およそ30名が強制収容されるにいたりました。檻は一応満員になりました。」=NHKアーカイブスから引用)
本作の舞台設定となっている1930年代のヨーロッパは、いわゆる「暗黒の木曜日」(世界大恐慌)の影響が冷(さめ)めやらなかったであろう、まだまだ混沌とした時代。
他方の昭和電工事件にしろ、まだまだ戦後の混乱期を脱しきれていなかった、これまた、混沌とした時代背景―。
いつの世にも、時代背景の混沌に乗じて、台頭しようとする輩(やから)がいるものなのだなぁ…というのが、評論子の偽らざる感想でした。
本作を観終わっての。
そういう時代背景を見事に切り取ってみせたという点では、さすがは、映画に関しては海千山千揃いの当サークルの会員がチョイスするに値する一本でもありました。
佳作だったと評するのが適切と、評論子は思います。
(追記)
本作で、スタビスキーの不正に感づいたボニー検察官が「あなたには手に負えない大きな事件になります。あなたの方が、潰されますよ。副市長にご相談なさい。」と(たしかベリクール議員にだったと記憶しますが)窘(たしな)められる…否、恫喝されるシーンがありました。
当初に疑惑に気づいた警察当局は、政財界のほかGHQの関与までもほのめかすなど「風呂敷を広げすぎた」結果、事件を検察に吸い上げられてしまい、結局はその捜査を「潰されてしまった」という点でも、日本の昭和電工事件でも、本作のスタビスキー事件は「瓜二つ」とも思います。
歴史は繰り返すとでもいうのか…。
究極的には人間の「欲」が原動力となって動いている、この資本主義社会という経済体制のいわば「暗部」は、洋の東西を問わないとでも、いうことができるのだとうとも思います。
そのことを浮き彫りにしているという意味でも、本作は、評論子には印象に深く残る一本になりました。
追記)
本作の冒頭で、レフ・トロツキーの亡命が描かれます。
本作には、そのシーンが挿入されていることの説明的なシーンは織り込まれていないようですし、この点について深く言及するレビュアーも見当たらなかったようです。
ときに、同氏は、いっときは政治局員として旧ソ連(共産主義)の政界で要職を占めた人物。
そして、同氏がその職を追われたのも、内部での権力争いに敗れたから―ということにほかならないのでしょう。
資本主義社会の「経済欲」と社会主義社会の「権力欲」―。
けっきょく、本作の謂(い)いとしては、世の中を動かしているのはどちらの世界でも「人間の欲」に他ならないことを暗示したもの―と、評論子は理解しました。
(追記)
原題は「スタビスキー」だけのようですけれども。
しかし、敢(あ)えて「薔薇の」という形容句を冠した本作の邦題には、主人公のスタビスキーは「薔薇の花のよう美しく装ってはいても、一皮剥(は)げば、その内実は…」というよ
うな反語的な意味合いが含まれているとすれば、評論子なりには合点も行きます。
少なくとも、単に「本作の作中に大量の薔薇(?)の花束がアイテムとして描写される」というのは本作の内実の表現(上記のような暗喩)であって、それが本作の邦題とイコールという
単純な理由からではないと、評論子的には理解したいところです。
シャロンの薔薇
ウクライナ生まれでユダヤ人だったトロツキーが出てくるんですよ。なぜか唐突に。つまりは、資本主義に取り入って財を成したスタビスキーとの対比が、裏テーマなんだろうなぁ、と思う訳で。スタビスキーはシャモニーの山荘で死をとげる。トロツキーは逃走先のメキシコシティで、スターリンが派遣した刺客によって暗殺される。
ブルー・チームもレッド・チームも、やるこたぁ一緒って事で。
妻に送り続けた薔薇は、中世ヨーロッパで、その香りと美しさが人々を惑わすとして、キリスト教会がタブーとされた花。一方、ユダヤ教の解釈は異なります。旧約聖書に登場する、ソロモンの歌の「シャロンの薔薇」は、キリスト教では別の花と解釈されますが、ユダヤ教では「薔薇」であり、美しく若い女性と彼女への愛情を表すとの解釈。
ユダヤ人であるスタビスキーですから、妻への贈り物となる花は、薔薇以外には考えられなかったんでしょうね。
映画としては、時系列の分かり難さ、ってのが一番の難点でした。特に、トロツキーの登場場面は、完全に時系列を見失ってしまいましたw
香りのない薔薇🌹
沢山の素晴らしい台詞に劇場と、ベルモンドの「舞台俳優」が全開!愛嬌あって女たらしでアクションバリバリのベルモンド、20代の演劇俳優のベルモンド、そしてこの映画のように円熟の舞台俳優。ベルモンドの色んな側面を知ることができました。
時間軸ずらして、彼の近くに居た人達の証言、包帯の彼?と思ったらシャモニーの山小屋にいるベルモンドとワクワクする構成でした。ベルモンド映画常連の2名も確認!これも嬉しかった。
あれだけ沢山の薔薇があっても香りが感じられなかった。妻のためと沢山の白い薔薇で車を飾ったがまるで葬送車だった。薔薇の使い方をあえて表面的にしていることでスタビスキーの嘘っぽさがよく表われていた。でもベルモンドの顔見ると憎めない。
幽霊
スタビスキー事件が起きた時の内閣は
左翼同盟内閣なのだが
1933年12月末にバイヨンヌ市立銀行が倒産し
スタビスキーが疑惑を招く自殺をしたあと
次の内閣も世論を落ち着かせられず
1934年2月6日の暴動で倒れ
このあと右翼政権が続く
ドレフュス事件以来
ユダヤ人問題もくすぶっていたようなのだが
ウクライナ出身のユダヤ人である彼の詐欺事件を機に
フランスは分裂状態が続く
彼の豪勢な生活ぶりと共に
亡命ロシア人(ユダヤ人)トロツキーや
ドイツからのユダヤ難民女性の人生が交錯する
美しきアルレットはシャネルのモデルで
映画ではサンローランが考えるシャネル風衣装を披露
シャネルは模造宝石のアクセサリーも流行らせたが
質屋でもあった彼はその目利きの信用を悪用して
宝石詐欺を思いついたのだろうか
ビシー政権を非難してしまうが
それに繋がってしまう地下水脈のようなものも感じられた
スタビスキーはアルレットにしがみついていたが
本当に愛していたかはわからない
劇場も所有したが詐欺師の彼は総てが演技なのだろうか
彼の人生みたいなちょっと謎めいた映画でしたが
ベルモンドには皆を引きずり込んでしまう
詐欺師の魅力のようなものを感じました
彼の共犯だった人々はその存在を記憶からも抹殺しようとする
語り部となる男爵(ボワイエ)とあの政商にもモデルはいるのかな
ベルモンドの政界スキャンダル年代記
1930年代フランスの政財界を揺るがしたスキャンダの実録もので、監督は、なんと難解映画の代名詞『去年マリエンバートで』のアラン・レネだけど、今回はストレートなドラマです。なんと言っても、1930年代のフランスの上流階級のゴージャスな雰囲気が素晴らしく、そこに食い込む山師的なベルモンドのアクの強さとの対比がうまく表現されています。とは言え、登場人物が入り乱れ、お話も前後するので、ストーリーを追うのがしんどく、本筋とは関係ないトロツキーの亡命エピソードにも尺を取っているので、さらに分かりにくい感じなのは残念。役者では、ベルモンドが、スタビスキーの明暗のある複雑な内面を見事に演じています。アニー・デュプレは、サンローランデザインのドレスを着こなし、艶やかでした。
華麗なるスタビスキーの最後を演じるベルモンドの野心
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