「食事、料理。神との関係。」バベットの晩餐会 あま・おとさんの映画レビュー(感想・評価)
食事、料理。神との関係。
寄り添って暮らす寒村の素朴な人々…その心の支えに宗教というものがあった。…と、それはいいのだが、映し出される映像の雰囲気で、わたしには、現実離れした自己満足的世界に思え、なによりとにかく圧迫感とか閉塞感を感じ、苦手意識が沸いてくるのを感じていた。それが前半だった。
しかし、後半に≪料理≫が登場してきたことでテーマが動いてきた。
大変面白かったのは、パリの超豪華料理が、全く縁がないはずの人々…その料理が何であるかも理解できない人々の口に入る、という運びだった。しかも彼らは、それを食べたいと思っていないばかりか、恐怖感まで抱いている…。奇想天外の話だ。ふつうあり得ない。
しかし考えてみれば…料理は、人間の基本的営みであり、天からの恵みを有り難くいただく、ということだろう。だとすれば、この出来事は、神の最も豊かな恵みが、それを受けるのに最もふさわしい人(最も敬虔で神に感謝できる人)にもたらされただけだ、という説得力を持つ。そしてバベッドは神の恵みを、最もふさわしい形にして人々に伝える仕事をした。信仰のうえでは芸術家の仕事とはそういうものなのだろう。
ならば、ひとびとからバベッドへお礼の言葉がなかったこともわかるような気がする。メンバーはこの晩餐で宗教的な幸福感を得たが、感謝する相手は神だった。バベッドもまた、たぶん信仰心をもって、芸術家としてやるべきことをやっただけだった。ひとりひとりが神と繋がっていた。
このように考えてみれば、美しく洒落た話だった。ゴシック小説の独特さ?はやはりちょっと苦手だが、どこかユーモアさえも感じさせて明るく、心を洗ってくれる映画だった。
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