鳩の翼のレビュー・感想・評価
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ミイラ取りがミイラになる時
数年ぶりに鑑賞。
前にSFサスペンススリラーの評で「ネタバレ状態だとあんまり楽しめない」的なことを書いたけど、この映画の場合、ネタバレ状態だとより一層、涙腺を刺激される。気がする。
タイトルのミイラは何かと言うと。ケイト(ヘレナ・ボナム・カーター)は、たぶん冒頭では拝金主義の伯母が好きではないし、束縛を嫌がってもいるし、また、愛する恋人マートンと自由に恋愛して結婚したいと思っている。
でも、身寄りのない彼女の後見人になり、阿片窟に入り浸ってるケイトの父親の生活の面倒を見てくれてるのも、伯母。
おそらく没落貴族である彼女の一族のために、自分たちより上の家に嫁ぐより他、選択肢がない。
泣く泣く一度はマートンと別れるケイト。そして時を同じくして、アメリカから来た死期の近い超絶お嬢様ミリーとお近づきになる。ケイトの彼氏とは知らず、マートンに好意を抱くミリー。
魔が差すっていうのは怖いな、と。伯母が「策略」を巡らすと言って揶揄してたはずのケイトが、いつの間にか、コワい顔で策略ばかり巡らしている。ちょっと違うけど、ミイラ取りがミイラに、という言葉が浮かんだ。
最初のうちは、ほんの出来心だった気もするんだけどね。ミリーの純情を踏みにじった訳だからね、、自分の純情をいちど犠牲にしたように。
ヴェニスが美しいですね。当時のアメリカ人の好みなのか、ミリーがよく着てるサテン?のドレスがとってもモダンで、髪に巻き付けたショールも相まって、まるでミュシャの絵を見てるようです。
現代でも結婚詐欺とかありますけれども、なかなか立証が難しい類いのものと思います。恋愛なんて当事者同士の話で、非常にあわあわとしたもので、即、法で裁けるような罪ばかりではない。
でも、法で裁かれないなら何をしてもいいかって言うと、そうもいかない。モラルがあるから。
この話は、観る人のモラルに訴えるところがあると思う。計略と罪の意識。許しと諦念。
目的を果たしたとして、自分たちが何事もなかった顔で笑えているか、結末は誰にもわからない。
愛し合うケイトとマートンが互いに別々の方向を見ながら、二人とも暗闇に怯えるように目を見開いているのが印象的。
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