劇場公開日 2020年12月4日

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「シリーズ完結。果てしない時間旅行の先に辿り着く“答え”。」バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0シリーズ完結。果てしない時間旅行の先に辿り着く“答え”。

2025年2月10日
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鑑賞方法:DVD/BD

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スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮、ロバート・ゼメキス監督による大ヒットシリーズ完結編。前作『PART2』と同時製作され、本国アメリカでは前作の公開から半年後に封切られた。

前作の事故によって1955年に一人取り残されたマーティは、70年前の1885年に書かれたドクからの手紙を受け取る。西武開拓時代で鍛冶屋として働いているというドクは、その時代で生涯を終える決意をしていた。そして、タイムマシンは人類の手に有り余る物だとして、無事1985年に帰還した後は、デロリアンを破壊するようマーティに指示していた。
マーティは55年のドクと接触し、鉱山に隠され眠っていたデロリアンを修理している最中、付近の墓でドクの本名エメット・ブラウンの名が記された墓石を発見する。調べると、ドクは手紙を書いた僅か1週間後に、ビフ・タネンの祖先ビュフォード・タネンの手によって射殺されていた。

ドクを救う為、西武開拓時代にやって来たマーティは、故障したデロリアンを洞窟に隠し、自分の祖先であるシェイマスらと出会う。シェイマスらの助けもあって無事ヒルバレーに辿り着いたマーティは、運悪くタネン一味と遭遇してしまう。間一髪の所で助けに現れたのは、鍛冶屋として働くドクだった。

故障したデロリアンを修理する手立てがない以上、この時代の技術を用いて時速140kmを達成させなければならない。ドクは蒸気機関車にデロリアンを押させる作戦を立てる。そんな中、ドクは峡谷に落ちた事で後の歴史に名前が残るはずだったクララ・クレイトンという女性を救出し、恋に落ちる。歴史を変えてしまった事に戸惑いつつも、ドクの恋の炎は燃え上がっていった。

今作の特徴は、これまでサポート役だったドクに恋の物語が訪れる点だ。これにより、彼がタイムマシンで未来に帰るか、西部時代に残ってクララと共に人生を歩むのかという選択が、観客の興味を引く。
いよいよクライマックス、機関車に乗ってきたクララを共に未来へ連れて行こうとドクは決心するが、暴走する機関車から彼女を救う為、ドクはマーティが持ち込んだホバーボードで彼女を救出して去って行く。彼は、“どの時代で生きるか”より“誰と生きるか”を選んだのだ。
ドクを残し、無事元いた1985年に帰還したマーティは、線路上に飛び出して来た事で列車と衝突し、思いがけずしてデロリアンを破壊する事になる。

帰宅したマーティは、家がPART1のラストと同じ少し裕福な家庭に戻った事を確認すると、ジェニファーを迎えに行く。バラバラになったデロリアンの破片地点までやって来た2人の前に、機関車を改造して再びタイムマシンを造り上げたドクが現れる。ドクはその後クララと結婚し、2人の息子を授かっていた。マーティに友情の証として時計台の前で撮影した写真を渡したドクは、「未来は白紙だ。未来は自分で切り開くものだ。君たちもいい未来を作れ」と、最後の激励して去り、物語は幕を閉じる。

最後まで暗くならず、明るいノリで駆け抜けていく様は、ザ・80年代(今作の公開は90年に入ってはいるが)といった感じで、終わりよければすべてよしという印象。
しかし、あれだけタイムマシンによる歴史改変の危険性を訴え続けていたドクには、もうタイムマシンを造ってほしくはなかった。ラストの展開も、マーティとジェニファーがドクがその後どうなったのかを調べる為にヒルバレーの図書館で当時の新聞や書物を探す中で、クララと結婚した事や子供を授かった事を知るという静かな展開の方が良かったのではないかと思う。「未来を自分の手で切り開け」というメッセージも、著書や時計台の前の石碑にでも刻まれているといった“直接は語らない”という演出の方がオシャレだと思うのだが。
また、個人的には、ラストのメッセージ以上に大事な事を作中でドクは語っていたと思うのだ。それは、クララと出会って恋に落ちた彼の「結果を恐れてはいかん。大切なのは自分の意志だよ」という台詞だ。この台詞があるからこそ、「未来は白紙だ」も「未来は自分自身で作るものだ」というメッセージもより輝くのだから。

未来を確認する手段として、マーティが持ち込んだ写真がキーアイテムになるという点が面白い。マーティ達の行動によって、墓石に刻まれる名が変化するというのは、不確かな未来を確認する一種のコンパスのよう。

マーティは自身の本名を偽る為、自らを“クリント・イーストウッド”と名乗るが、当時『ダーティハリー』シリーズで大スターとなっていた彼の名を用いるジョークだけに留まらず、前作で資産家となったビフがバスルームで観ていた『荒野の用心棒』ネタ、今作のクライマックスでタネンと対決する際、同じく『荒野の用心棒』ネタとして胸に鉄板を仕込んで窮地を凌ぐという展開のオマージュにも繋がっている点が素晴らしい。鏡の前で銃を手に『タクシードライバー』やそれこそ『ダーティハリー』の“Make my day(楽しませてくれ)”という台詞を引用するのもポイント。

前作『PART2』と合わせ、今作は2部作合わせて一作の作品になりそうだと語ったが、やはり製作段階でアイデアが膨らみ過ぎて1作では纏め切れなくなり、急遽2作つくられる事になったそうだ。なので、認識としては前作を前編、今作を後編と捉えた方が良さそう。
個人的には、後編である今作の方が好みである。ラストの展開にこそ多少の不満はあるが、クライマックスの機関車での件は、『PART1』にあったような「どうなる!?」という緊迫感があって良かったと思う。また、機関車という“常に前へと進む”装置は、同時に物語をも前へ前へと進める事が出来るので、脚本の推進力を確保するのに適している。
マーティが自身の短気を克服し、タネンとの決着を殺し合いではなく殴り合いに収めた点、現代に帰還後ニードルスから自動車レースの挑発を受けた際に流してみせる成長を見せたのも良かった。

時間旅行へ向かったドクがこの後どの時代に向かうのか。マーティとジェニファーはどんな未来を築くのか。若干の「蛇足だったなぁ」感はありつつも、彼らのこの先の冒険に思いを馳せたい。PART4?バカを言っちゃいけない。

緋里阿 純