バウンティフルへの旅のレビュー・感想・評価
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【”皆、消えて行く。けれど、川と野原は消えない、と母は故郷で言った。”息子の嫁と合わない老女が、独り故郷へ帰る旅の中で様々な人の情けに触れ、息子夫婦とも和解する心にじんわり沁みるロードムービー。】
■息子のルディ(ジョン・ハード)夫婦と狭い2間のアパートに同居するキャリー(ジェラルディン・ペイジ)。
口うるさい嫁ジェシー・メイ(カーリン・グリン)とは口論が絶えず、息子は真面目に勤めているが十分に給料を稼げず、3人の暮らしはキャリーの年金に頼らざるを得ない。
そんな窮屈な生活から逃れるべく、キャリーは故郷のバウンティフルに帰る事を決意する。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・序盤は口うるさい嫁ジェシー・メイが、義母キャリーに対して”讃美歌を歌わないで!、家の中を走らないで!”と金切り声で頻繁に言う姿が、五月蠅く感じる。
・だが、ジェシー・メイは根っからの悪妻ではなく、彼女なりに心臓が悪い義母を気遣っている事が何となく分かる。
・だが、キャリーは息子夫婦に気を使いながら暮らす事に嫌気がさして、バックに最小限のものを詰めて家を出るのである。
・駅で切符を買う時に、”バウンティフルへ”と言っても、その駅は最早ない。彼女が故郷を出て20年も経つので、故郷の駅は無くなっているのである。
だが、彼女がお金を払うのにもたもたしていても、後ろに並んでいる人たちは、、少し苛苛しながらも急かす事はない。
この映画の年代は、どれ位なんだろう。一人旅をするキャリーに対して、周りの人は寛容で、優しいのである。
・その代表が、彼女と途中まで旅をするセルマ(レベッカ・デモーネイ)だろう。キャリーの事を探しに来た息子夫婦にも、少しぼやかして応えるし、キャリーが讃美歌を口ずさんでも”素敵な曲ね。”と声を掛け、サンドイッチを分けて上げるのである。
・又、バウンティフルまで20キロある町の停留所で、バッグをバスに忘れた事に気付くも、親切にそれを取り戻す停留所の男。それが当たり前であるかのように。
そして、息子夫婦が自分の捜索願を出した事を知ったキャリーを、迎えに来た保安官は彼女の故郷迄車で乗せて行って上げるのである。
■キャリーが、嵐が来たら崩れそうな思い出の家にいると、息子夫婦が車で到着する。そして、母と息子はハンサムだった夫、父親の思い出を語り合い、母は息子に”お父さんに似て来たわね。”と優しく言うのである。
それを聞いた息子はジェシー・メイに対して、”仲良くするんだ!”と少し強めに言うと彼女も素直に従うのである。
<今作は、もう誰も住んでいない故郷バウンティフルまで一人で帰る老女キャリーの、人の情けと触れ合うロードムービーであり、息子夫婦との新たな関係性を構築する様を描いたヒューマンドラマでもあるのである。
私が、この作品の本当の良さが分かるには、あと30年位かかるのだろうなあ。
何だか、しんみりと、じんわりと心に沁みる作品でもある。>
アンドリュー・ワイエスの「クリスティーナの世界」
アンドリュー・ワイエスの「クリスティーナの世界」を思い出した。
30年以上前にレンタルビデオで見た。でも、内容の詳細を覚えていなかった。
僕もガキの頃、全国を旅していた。そんな時何度か、駅に泊って、始発の列車を待つような事が何度もあった。また、この映画が封切られた時期は、まだ青函連絡船が運航していた頃だ。夜行列車から最終の連絡船に乗って、朝一番に函館に着く。又はその逆。兎に角、いつも一人で旅していた。だから、この老婆の寂しい姿を、記憶に焼き付けた気になっていた。だが、僕の記憶からはすっかり恩讐の彼方だった。
しかし、今は年齢もこの老婆と同じになり、「アンドリーワイエス」の「クリスディーナの世界」を思い出すに至ったのだ。
僕は引っ越しを13回以上した。だから、ふるさとのある人達が物凄く羨ましい。かなぁ?
嫁と姑?
ジェシーは化粧技術が凄いのか、自己中の意地悪い形相が適役だった。
この映画に出てくる女性は誰もが嘘をつけない性格なのは個人主義のアメリカだからなのか?それも大切だとは思うけど、一緒に仲良く生活するためには時には、日本的な建前の嘘・優しい嘘も必要なのではないかと思う。
優しすぎる息子ルディには、もっとしっかりして!と背中を叩きたくなるけど、それが人生なのだろう。
主演女優賞を取ったジェラルディン・ペイジは、どこのシーンを観ても凄かった。特に故郷へ向かうバスの窓からの表情は、観ているこちらも幸せになるほどだった。顔も年齢も私の母親とオーバーラップしてしまい、感情移入してしまったことは否めないが。どこかで母親ワッツが昔の最愛の人と再会しないかなぁという淡い期待は最後まで持ってたのだが残念でならない。
駅で出会い仲良くなった女性の存在が希望の光となる。世界中の人がみんな彼女のようだったら、もめ事もなくなるだろうに。愛する人と結婚できることがどれほど幸運なことか、主役の言葉が突き刺さる。たとえそれが叶ったとしてもその幸せを阻む戦争。今も世界のあちこちで起きている戦争・争いには、どちらが悪いとかではなく胸が痛む。
「郷愁」は人の常なのだろうか。年齢を重ねれば重ねるほどに強まってきた。当時の姿は変わり果てていると、心では分かっていても、私も見たい・行きたい・帰りたいと感じる映画だった。
調べてみると1985年に完成し、ペイジは翌86年に受賞。そして翌87年に逝去。幸福な晩年を過ごしたように思えて嬉しくなった。
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