「優雅な役どころで受賞してこそ、エリザベス・テーラーではないのか…」バージニア・ウルフなんかこわくない KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
優雅な役どころで受賞してこそ、エリザベス・テーラーではないのか…
全般的に不快な話だ。
この作品から我々は何を楽しみ、
何を学べば良いのか。
最近「死刑台のメロディ」という映画で
冤罪で死刑になる主人公の
「利他する幸福を」
という息子への書き置きが印象的だったが、
この作品の登場人物は
その言葉とは裏腹な自分本位な印象だ。
主人公の夫婦は異常な程
がさつで悪態の吐き合いに終始するが、
本題に迫るために
ここまで極端な夫婦像にする必要があるのか
理解出来ないと共に、
そこには何のリアリティも感じなかった。
また、基本的に分からないのが、
登場人物の4人を
かなりの深酒の中に置いたことだが、
このような設定は問題を余りにも特殊解化
することにならないだろうか。
また、舞台の映画化には
リアリティ的改変が必要になるはずだが、
この作品では余りにも演劇的過ぎて
違和感があった。
この夫婦に子供はいないのだろうことは
見え見えだが、
いないはずの息子の死を告げる夫の対応も
今更と感じる。
酒に溺れる夜が
子を成さなかった夫婦の苦しみの期間で、
夜明け以降が
それを癒やす期間の象徴として、
この作品のテーマが子の無い夫婦の
心の彷徨だとしても、
余りにも設定が安易に感じられる。
舞台劇の映画化で成功した作品として
「探偵物語」「フロント・ページ」
「ジーザズ・クライスト・スーパースター」
などを思い出すか、
この舞台劇のデフォルメ感を
そのまま映像世界に持ち込んだこの作品が
とても映画化に成功しているとは思えない。
この作品が
「アルジェの戦い」「わが命つきるとも」
「夜の大捜査線」「昼顔」の名作揃いの年での
キネマ旬報11位とは驚きだ。
また、エリザベス・テーラーはこの作品で
アカデミー主演女優賞を得た。
思い出すのはグレース・ケリー。
彼女も「喝采」での
化粧を落とした素顔的演技で
アカデミー主演女優賞を得ている。
この作品のエリザベスも
力演ではあるだろうが
彼女の優雅さをかなぐり捨てたかのような
演技だからの女優賞では
私は素直に賛同出来ない。
彼女らしい優雅な役どころで
受賞を得てこそ
エリザベス・テーラーではないのか。
これまでも
「陽のあたる場所」「ジャイアンツ」
「クレオパトラ」等々、たくさんの出演作品を
観てきて、最近も彼女の主演作品として
「熱いトタン屋根の猫」と「バターフィールド8」
とこの作品を続けて観てみたが、
もう彼女を前提での作品選択をする必要は
ないような気もした。