劇場公開日 1977年1月22日

トロイアの女のレビュー・感想・評価

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4.0戦争の犠牲者である女性の、嘆き苦しみを表現した女性映画の見応えと迫力感

2022年3月16日
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鑑賞方法:映画館

これはギリシア悲劇の古典に挑んだマイケル・カコヤニス監督の本領を発揮した、見応え充分な力作だった。このような本格的な演劇が映画で表現されることは、遠い過去のものとして時代から忘れ去られて行くだろう。それでも70年代に古典を映画制作したことの意味は、カコヤニス監督の自信と誇りの表れであると思う。何より役者の実力を最大限に生かして、古典悲劇の魅力を構築していることが素晴らしかった。ベテランの名女優キャサリン・ヘップバーンに、若手ではジュヌビエーヌ・ビジョルド、「ジュリア」でアカデミー賞の助演女優賞を受賞したバネッサ・レッドグレイヴ、そしてトロイアのヘレンに扮するイレーネ・パパスと、演技力と強固な個性を表現できる女優たちの、正に豪華版である。
これら4人の女優は、その順番に登場してドラマの盛り上がりとは別に、ひとりの女性としての情念の爆発を割り当てられている。トロイアの王妃であり残された女性たちの指導者であるヘップバーンは、ギリシアによって滅ぼされたトロイアの悲劇を全身の動きで表現し、その細身の身体がより苦闘の激しさを表す。この映画の品格が、ヘップバーンの存在感で成立していると言って過言ではない。そこへ先天的な霊感の持主の王女のビジョルドが現れ、狂人に成り果てた姿を妖しげに演じ出す。この親子の熾烈を極めた争いの見事なこと。そして、夫の王子を失ったレッドグレイヴが息子を連れて登場するが、その幼い男の子までもギリシア軍は殺害せよと命令を伝える。どう抵抗しようと、トロイアの男は滅亡の運命にある。映画のクライマックスは、王妃ヘップバーンと亡骸となった孫の再会と、そして曲者ヘレンのパパスの登場となる。このパパスの演技がまた素晴らしい。トロイアに悲劇をもたらした張本人とも云えるヘレンだけが優遇される場面、女たちが衝突する劇的な展開をパパスの強烈な個性が支える。
ギリシア古典悲劇の演劇ドラマとして見応えのある映画作品だった。演劇の素養の無い者でも、この女優たちの熱演には圧倒されると思う。その一人として素直に評価したい作品である。

  1978年 5月3日  高田馬場パール座

カコヤニス作品は、他に「魚が出てきた日」しか観ていない。イレーネ・パパスは、メリナ・メルクーリと共にギリシャ出身の好きな女優さん。「ナバロンの要塞」「悪い奴ほど手が白い」「Z」「1000日のアン」「風雪の太陽」「エレンディラ」「「予告された殺人の記録」と観ているが、この映画の演技も良かった。演技力を備えた存在感ある個性派女優のひとり。時に話のネタに挙げられるトロイの木馬の事を知ったのは、中学生の時にテレビで観たロッサナ・ポデスタ主演、ロバート・ワイズ監督の「トロイのヘレン」だった。最近では、ブラッド・ピット主演の「トロイ」が記憶に新しい。その中で、この作品は女性映画の先駆とも云えるくらい、演技派女優による本格的な演劇映画になっている。

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Gustav