逃亡地帯のレビュー・感想・評価
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実にアメリカ人らしい愚かさが見所
何を書こうか思案しながらいくつかレビューを読んでいて、この作品を理解するために必要な知識が少しあることに気付いた。
一つは、保安官という職業は選任されてなるもので、なりたいからとなれる職ではないということ。
この町は小さい。町民全員が顔見知りに近い程度の小さな町だ。その町の権力者であるロジャースには町を動かせるほどの力がある。
ロジャースは、カルダー保安官に対して「保安官にしてやった」と言い。町民は保安官に対して「ロジャースの犬」と言う。
法なんかより権力のほうが力を持つ場合、保安官などただの男となんら変わりないのだ。
もう一つは、アメリカ人のヒーロー願望である。悪を誅する自分は最高にカッコイイ正義なのだ。
悪の定義は?。それは自分が「悪」と認定するだけでいい。そこに事実や証拠は要らないのである。
白人がアフリカ系アメリカ人をボコるのも、白人目線では黒人が「悪」だからだ。
本作の逃亡犯ババーはどうだ?。ヒーロー願望の強いマッチョな男どもから見れば明らかに「悪」である。
本当のババーは?。事件の真相は?。そんなものはどうでもいいのだ。
「悪」であるババーを庇うカルダー保安官もまた、半分「悪」なのだ。
この2点を分かって観ると、一見無秩序でクレイジーに見える物語もスッキリすると思う。
ある意味で、作中では狂ったことなど何も起きていないともいえる。
まあ、町の若者だけではなく、町全体がパーティ気分でハチャメチャなことは気になるところではあるが、少々オーバーだとしてもアメリカに限らずどこででも起こる酒の勢いというやつだろう。
テンポがゆるく、最高に面白いとはいえないが、実にアメリカらしい作品だった。
アメリカ人は全く成長しない。
土曜日の狂乱
てっきり逃亡モノの作品かと思っていたのに、オープニングこそ緊迫する逃亡劇だったものの趣旨が全く違っていたことに驚いてしまった。舞台となるのはテキサス州のメキシコに近い海辺の町。石油成金の金持ちが多いこの町でも、首領とも言えるバル・ロジャースが金をばらまいて不動の地位にいた。刑務所脱獄があった土曜日の夜、盛大なバル(E・G・マーシャル)の誕生パーティやババー(レッドフォード)を知る中年夫婦たちのパーティ、それに10代の若者たちのパーティなどが行われていた。
2年前にババーが刑務所に収監されてから、ババーの妻アンナ(ジェーン・フォンダ)はバルの御曹司ジェイク(ジェームズ・フォックス)と愛し合っていた。多くの人は知っていた公認の中だったが、バルとババーはその事実を知らない。ババーがジェイクに復讐するために脱獄しただのと噂は絶えず、みなニュースに興味津々。一緒に脱獄した凶悪犯が逃亡中に殺人を犯したのに、ババーが殺したのだと信じ切っていた。
そんな中でも銀行員のエドウィン(ロバート・デュバル)やババーの黒人の同僚レスターは以前に罪を被ってもらったこともあり、彼を信じていた。そして両親もアンナもジェイクも保安官カルダー(マーロン・ブランド)も、ババーは乱暴ものだけど人殺しはしないはずだと信じていたのだ。
石油成金が多い町。拝金主義者ばかりで、銃を持っている者だらけ。アメリカの闇の部分が強く表れ、黒人差別も根強い町なのです。中年パーティでは夫婦交換なんてのも厭わないほど、退廃的な自由を追い求めていた。カルダーだけはおかしさに気づいて、賄賂とも思える寄付などを断り始めていたし、子供のいない老夫婦も冷ややかに成り行きを見ていた。
レスターがアンナと連絡を取ろうとしていたことから、人々はババーが近くに来ていると察知して、カルダーとレスターに卑劣な暴行を加えて聞き出そうとする。皆、ババーを殺したがっていたのだ。そして、暴徒化した人々が警察に集まりスクラップ工場へ押し寄せ、何か戦争でも起こったかのように暴れまくる狂気。群集心理なんてものじゃない。明らかにアメリカが抱える闇が爆発したものだろう。ベトナム戦争に本格的に参戦したり、公民権運動の時期だったりするので、時代がこの作品を生んだのだろう。おぞましい・・・テキサスだけのことと思いたい。
法も秩序もない
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