「モンキーの巣の上で。 SFとパラノイアが融合した悪夢的カオスの世界にマクレーンが挑む!」12モンキーズ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
モンキーの巣の上で。 SFとパラノイアが融合した悪夢的カオスの世界にマクレーンが挑む!
未来から送り込まれた男コールが、人類の大多数を死滅させたウィルスの謎を究明する為に奮闘する様を描いたSFサイコサスペンス。
監督は『未来世紀ブラジル』『フィッシャー・キング』の、巨匠テリー・ギリアム。
主人公ジェームズ・コールを演じるのは『ダイ・ハード』シリーズや『パルプ・フィクション』の、名優ブルース・ウィリス。
精神病院の入院患者、ジェフリー・ゴインズを演じるのは『インタビュー・ウィズ・バンパイア』『セブン』の、名優ブラッド・ピット。
第53回 ゴールデングローブ賞において、ブラッド・ピットが助演男優賞を受賞!
コメディ集団「モンティ・パイソン」の元メンバー、テリー・ギリアム監督。「鬼才」と称される彼の作品を初めて鑑賞してみたのだが、うーん面白い…。
基本はSF映画でありながら、タイムトラベルとパラノイアを悪魔合体させる事により独自の悪夢的世界を構築し、観客も妄想と現実の狭間をブルース・ウィリスと共に強制的に巡らされる。
ひとつひとつの要素はありきたりである。精神病院の描写は『カッコーの巣の上で』(1975)、タイムトラベル要素は『ターミネーター』(1984)、動物園を解放するというのはジョン・アーヴィングのデビュー作「熊を放つ」(1968)、そして主人公ジェームズ・コールの泥だらけで頑張る様はどうしたって『ダイ・ハード』(1988)のジョン・マクレーンを彷彿とさせる。
とまぁこんな具合に、何処かで見た事があるあれやこれやで埋め尽くされている映画なのだが、ブレンドの加減がとにかく絶妙。先行作品の二番煎じに陥っていないどころか、公開からどれだけ時間が経とうが決して古びないであろう圧巻の強度を生み出す事に成功している。
ブルース・ウィリスとブラピの共演も見どころの一つ。本作が公開された1995年はプラピの代表作である『セブン』も公開された、彼が俳優として大躍進を遂げた年である。
頭のネジが外れた環境テロリストを演じ切り、演技派としての側面を見せつけたプラピ。このゴインズの役どころが、後に『ファイト・クラブ』(1999)のタイラー・ダーデンへと繋がるのかと思うと感慨深い。言ってる事とかやってる事、ほとんど一緒じゃん!
過去からやって来たマクレーンと、未来からやって来たタイラーが現在で激突する!こんな夢の対決が見られるのはこの映画だけっ!🫵
タイムトラベルは作品によってルールが違う。
目的がウィルスの蔓延を阻止する事ではなく、ウィルスの対処法を見つける事であるからも分かるように、本作では一度起こった事は過去に戻っても変えられないようだ。過去改変がモロに現在に影響を及ぼす『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)形式ではなく、どちらかというと『ドラゴンボール』(1984-)のセル編に近い感じなんだと思う。
過去・現在・未来を通して地獄巡りをさせられるコール。自由を掴む為に必死に足掻くも、結局は自らの死という既定路線を歩んでいるだけだった、というエンディングはニヒリズムに満ちており、1人の人間が世界の破滅を防ぐ事が出来るという幻想を打ち砕く。
しかし、コールの行動は全くの無意味だった訳ではない。幼少時の彼が見た黄色いレインコートの男はゴインズだったが、実際はピータースだった。僅かだが、確実に未来は変化しているのだ。
映画は悲劇として幕を下すが、環境問題は1人の英雄ではなく市井の人間1人1人の行動に掛かっているという、切実かつ前向きなメッセージが込められている様に思う。
コールとライリーのロマンスは完全にストックホルム症候群じゃねーかっ!!とか、終盤の手持ち無沙汰感とか、言いたい事が無いわけでは無いんだけど、それでも尚本作の面白さは揺るがない。
シリアスな物語でありながらコメディの要素もちゃんと含まれていて観やすく、アストル・ピアソラ作曲のタンゴ「Suite Punta del Este」(1982)をベースにしたテーマ曲も如才無く映画を彩っている。いやはや、テリー・ギリアム監督お見それしました🙇
脚本、映像、音楽、キャスト、全てが一級品の傑作。SF映画ってこういう事だわ!