「映画力に満ち溢れた怪作」12モンキーズ 加藤プリンさんの映画レビュー(感想・評価)
映画力に満ち溢れた怪作
テリーギリアムのチャチなおもちゃ箱のようなイマジネーションの世界が、
脚本といい形でマッチし、傑作になった稀有な例ですね。
彼の独自の世界は、良くも悪くも、ぶっ飛んでおり、映画力と芸術力と、妙な特撮に偏った
尖りきった作品が多く、難解で、一定数のコアなファン(私もです)に留まる、
メジャーになりえない、非常に非常に惜しい作家性なのですが、
今回はたまたま、企画がよかったのか、この良くできた脚本との融合により、(ギリギリですが)
比較的、マトモでメジャーベースにも載せられる、良作品に仕上がっています。
とはいえ、オープニングのディストピア感満載の未来世界の映像は素晴らしいですし、
(予算が尽きたのか⁉ というほど、それっきり描かれなくなるのが残念=脚本がうまい)
美しくも歪んだ映像表現、捻りの効いたシニカルな選曲(ピアソラなんか大好き)、
オーラス近くの12モンキーズの犯罪の場面(笑)など、
非常に卓越したセンスと、演出力と、爆発的な映画力に満ち溢れております。
この映画力だけで、観るに値する作品だと思います。
今では何でもアリのCGより、よほど、味のある、そして合成感の(あまり)ない、素晴らしい特撮に仕上がっています。
技術的にも恵まれた、ちょうど良い時代だったのでしょうね。
この作品の素晴らしいところは、タイムスリップものでありながら、時間の不可逆性には逆らわず、
タイムリープもの的な脚本の構成の上手さもあいまって、ちゃんとしたSFに落とし込んでいるところですね。
これが滅茶苦茶になると、更に台本が混乱し、わけの分からない映画になってしまうのですが、
ご都合主義でまとめられたバックトゥザフューチャーのようなライトSFな作風にならずに、
ハードSFから逃げずに勝負しております。
そのため、決して万人向けではなく、難解な印象が強い作品になっています。
とはいえ、思わせぶりな伏線があいまって、「妄想か、正気か」という、非常に曖昧なテーマを
上手にミスリードに繋げてゆくあたり、とても上手いのですが、
個人的には、
その精神性の歪みには、ちゃんと肉体性が伴っており、
要は、血が流れたり、怪我をしている状態の登場人物はマトモではなく、揺らぐのに対し、
健康な肉体には健康な精神が流れたりするため、進行するため、主人公は(わざと)流血させられる、怪我をするという
物語上の必然があり、役者は当然、ダイハードのブルースウィルスですから、思わず笑ってしまいます。。というメタ的な仕掛けが好きですね。
この映画は、先述のとおり、時間の不可逆性に支配されておりますから、当然、世界はラストシーンで救われることはなく、
定められたとおり、あのまま、世界は一度滅びるのでしょう。
保険のおばさんと(笑)、ボランティアの皆さん(笑)により、救われる(変わる)としたら、
あのディストピア世界のその先の未来なのですが、
そこは描かれることもなく、「この素晴らしき世界」、ルイ・アームストロングに繋げるあたり、
お洒落というか、非常にキツいシャレのきいた、シニカルな作風が好きです。