「久しぶりに再視聴。感じ方の違いに戸惑ったが、やはり凄みのある名作。」天井棧敷の人々 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
久しぶりに再視聴。感じ方の違いに戸惑ったが、やはり凄みのある名作。
1945年製作/190分/G/フランス、原題または英題:Les enfants du paradis、配給:ザジフィルムズ、劇場公開日:2020年10月23日、その他の公開日:1952年(日本初公開)。
多分大学生の頃、何の先入観もなくNHKで本映画を見て、昔のフランス映画って恋愛の本質を描いていて凄い、大傑作!と感激したことを鮮烈に覚えている。
今回再見してみて、名作とは思ったが、そこまで心は大きく動かされなかった。主人公のバチスト(ジャン=ルイ・バロー)には今更不倫するのかと思ってしまったし、ガランス(アルレッティ)に関しこんなおばさん(実際1898年生まれ)の何処が良いと思ってしまった。
そして、年月を経て道徳や社会通念に凝り固められてしまった自分の感性の硬直化に、気付かされもした。
ただバチストに片想いしていてやがて結婚もし子供も得たナタリー(マリア・カザレス)には、あの女に勝ったと思っていたのに夫の心は結局ずっとガランスにあり、そのことを露骨に見せられ、あまりに可哀想で理不尽と感ずるのは、今も昔も共通。
今回はモントレー伯爵(ルイ・サルー)にも、いたく同情してしまった。大富豪で、社会的地位も高く、ガランスを妻にできたが、それでも彼女はバチスト一途で、愛情的には決して報われず、挙げ句の果てにガランスを密かにずっと恋焦がれている詩人で悪漢ピエール・フランソワ・ラスネール(マルセル・エラン)に殺されてしまう。
恋愛の不公平さというか理不尽さ、尽くしても尽くしても報われない現実の残酷さ、そして恋愛の狂気性を、この映画はまざまざと見せつける。
今回は女たらしの俳優フレデリック・ルメートル(ピエール・ブラッスール)の描かれ方にも感心させられた。一見そうは見えないが、彼は無言劇団で常に真剣に演劇に取り組んでいる。しかし喝采を浴びるのはいつもバチスト。シェクスピア劇を信奉する彼は無言劇に耐えられなくなり他の劇団に移籍する(そこで名声を獲得)。
本来の実力とは別にそこでは、何故か陽の当たる人間とそうでない人間がいて、その運命というか理不尽な現実を描いていて、身をつまされる思いがした。
結局、感激度や感じ方、良いと思う部分は昔見た時とかなり変わったが、実にフランス的な名作という評価はやはり変わらないと、思えた。
監督マルセル・カルネ、脚本ジャック・プレベール、撮影ロジェ・ユベール マルク・フォサール、美術アレクサンドル・トローネル 、レオン・バルザック 、レイモン・ガビュッティ、
音楽モーリス・ティリエ ジョセフ・コスマ。
出演
ガランスアルレッティ、バチストジャン=ルイ・バロー、マリア・カザレス、ピエール・ブラッスール、ルイ・サルー、マルセル・エラン、ピエール・ルノワール。