劇場公開日 1996年8月3日

「問いかけてくるもの」デッドマン・ウォーキング たまさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0問いかけてくるもの

2024年10月2日
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胸に深く突き刺さる傑作。私は、涙なしにはこの作品を観ることはできない。折に触れみている。
95年制作。

合法的殺人、死刑。非合法殺人との対比。
死刑制度の是非を真正面から問いかける。
目には目を、歯には歯を。古代エジプト、メソポタミア文明時代、バビロニアを統治したハンムラビ王が制定したとされる、ハンムラビ法典にその言葉が記されている。罪刑法定主義の原点とされている。

物語はシスターと死刑囚の対話、心的交流を軸に残虐な犯罪で殺される命と、死刑という制度で殺される命。死、ということだけをとれば、それは殺人と変わらず合法か非合法か、という違いがあるだけではないだろうか、と静かに問いかけているように私は捉えている。

殺人を犯した死刑囚マシューと、その精神的支柱になろうとするシスターヘレン。
マシューの育ってきた環境、無惨、残虐に殺された若い命、彼らの遺族との対比。残酷な犯罪の描写もフラッシュバックで描写されている。
どんな残虐な犯罪を犯し人命を奪った人間にとっても死刑は制度的合法殺人であり、ならば命をもってそれは償いになるのか。
被害者家族は、それで心に安寧を得ることができるのか。

しかし、私が上記のように述べてきたのも結局、安全地帯からの言葉であり、自分の家族や大切な人達が殺された、となれば冷静でいられるはずがない。
犯人にも同じ思いを、と感じるに違いない。
まさに目は目を、歯には歯を、の精神状態におちいるだろう。
いつ自らが加害者、被害者になるかだってわからない…。

監督名優ティムロビンス
シスター演じるはスーザンサランドン、この演技でアカデミー受賞。死刑囚マシューのショーンペン。この人の演技にはいつも圧倒される。2人の圧巻の演技。
撮影監督ロジャーディーキンス。ショーシャンクの空に、でも壁、ガラスに隔てられた2つの世界、刑務所の壮大な空撮など圧巻の撮影で魅せる。
今作も隔てられた向こうとこちらの世界、ガラスに隔てられた壁、俳優のアップ、ロング、心情を捉えるなど見事な撮影。

現在、先進国で死刑制度がある国は日本と数少ない国々らしい。
アメリカは連邦国家であり、州ごとに法律も違うという。

物語終盤、死刑囚マシューは死を受け入れ遺族に謝罪の言葉を述べ、死んでいく。
シスターヘレンの粘り強い対話の精神で、死を前にして罪を受け入れる。
多くの洋画と同様、今作にもキリスト教の概念、聖書の言葉が多く出てくる、心の支えともなる信仰とは何か、も訴えている。

ラストは心を揺さぶられ、とても冷静にはみていられなくなる。涙が滲む、

現代日本でも、残酷な犯罪があり、人命を奪う人間と無念にも奪われてしまう人がいる。

死刑制度があったとしても、果たしてそれが犯罪抑止につながっているのだろうか。

センシティブなテーマだが、音楽が良い。
ラストに流れるブルーススプリングスティンの歌も静かな余韻を残す。
デッドマンウォーキング、死刑囚が行くぞ、という意味らしい。

多くの方にみていただきたい作品です。
私には無責任ではあるが、正しい答えはわからない。

たま