テスのレビュー・感想・評価
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イギリス版『砂の器』『飢餓海峡』土曜サスペンス劇場
美少女の贅沢な悩み。
イギリス人特有の武士は食わねど高楊枝ってやつだ。
僕はその芸術に個人の志向は関係ないと考えている。従って、演出家の考え方もその作品が完成した段階で、淘汰されていると思って鑑賞している。この作品もそう思って見てみた。しかし、どうしてもそうは思えない。言うまでもなく、この映画はナスターシャ・キンスキーの為だけの映画である。キンスキーもそれを充分に理解して演じている。まるで、個人的な暗室で家族で見る運動会か結婚式の8ミリ映画のようだ。
エンジェル・クレアがどう見てもブ男。僕は男性なので、片りんしか分からないが、我が近親者がこの映画が好きで、見に行ったが『キンスキーには、不釣り合いな男ね』と話してくれた。推測するに、演出家本人にどことなく似ている様な気がする。まぁ、そのくらいキンスキーがきれいなのは認める。
さて、キンスキーのオヤジはあの『殺しが静かやって来る』キンスキーだ。この俳優が地を丸だしにした適役。キンスキーを診ると手塚治虫先生のスカンクを思い出す。勿論、プライベートな事は知っているが、個人的志向は芸術とは無関係だ。
忘れられない悲哀のまなざし
純粋なテスの瞳にうつっていたのどかな田園とささやかな家族との暮らし。
それは、あの日までの幸せだった。
下心を持つ大人(美しい娘を奉公に出し経済力を得ようとした両親と欲望の獲物にしようとした男たち)と自分本位だった夫に人生を翻弄されたテスの終末。
警察に追われ疲れ果て、古代の天文台ともいわれたストーンヘンジの石の上に横たわるテスの姿がある。
華麗な美とひきかえになった哀しい運命を日と陰に表したのだろう。
家族を貧しさから助けるためのやさしい気持ちではじまった人生の狂いが辛い。
そして、親がわかっていながらそうする貧しさにまとわりついた断ち切れない負の感情が悲しい。
彼女の最高に輝かしい一瞬は、フルートのやさしい音色をきき彼への恋に落ちたあの時がピークだったとおもう。
ヨーロッパの風景など映像美は印象的なものだったが、ただただ辛いストーリーの余韻が大きく、しばらく心がのまれたままだ。
トマス・ハーディの小説『ダーバヴィル家のテス』の映画化で、初公開時...
トマス・ハーディの小説『ダーバヴィル家のテス』の映画化で、初公開時にも観ています。
原作も10~15年ほど前に読みました。
19世紀末、英国東北部ドーセット地方のマーロット村。
子だくさんの貧しい行商人ジョン・ダービフィールドは、新任の牧師に「サー・ジョン」と挨拶される。
連日の「サー」敬称に不審に思ったジョンが尋ねると、「君は由緒ある貴族ダーバヴィル家の末裔だ。滅んでしまったが・・・」と答えた。
離れた土地にダーバヴィルという邸があることを聞きつけた母親は、少しばかりの援助を頼もうと、長姉テス(ナスターシャ・キンスキー)を使いに出す。
いやいやだったテスだが、邸の女主人から「養鶏場の使用人としてなら雇いたい」との返事が来、家計を助ける意味からテスは邸勤めを決意する・・・
といったところから始まる物語で、溝口健二監督の西鶴『好色一代女』と同じで、美貌ゆえに不幸になってしまう女性の話。
テスはもともと気位が高い性質で、冒頭描かれる野で集団ダンスに余所者が加わってきたときに、相手にしない。
(このひとりが、のちのテスの運命の男性エンジェルである)
そんなもともとの性質に加えて、貴族の血脈というものを信じたゆえに、気位はますます高くなってしまい、放浪の身となった際、ダーバヴィルの息子が援助の手を差し伸べても固辞してしまう。
(ダーバヴィルの息子に手籠めにされ、私生児を産み、すぐに喪ってしまうという過去はあるが)
と二重三重ともいうべき不幸の連鎖は観ていて楽しいわけはない。
が、80年代くらいまでは、この手の悲劇も堂々とした映画として映画化され、一般劇場で大々的に公開されたものだ。
ナスターシャ・キンスキーの美しさはとりもなおさず、フィリップ・サルドの音楽、ジェフリー・アンスワースとギスラン・クロケによる撮影、衣装、美術とどれをとっても一級品。
製作は、この後しばらくして『愛と宿命の泉』という文芸大作を監督するクロード・ベリ。
文芸大作を堪能するとともに、文芸大作がつくられた時代を懐かしく思いました。
クズ男たちに…
運命を翻弄される美しき儚げなテス。第一の男ダーバヴィルはもっての外だが、第二の男エンジェルもかなり酷い。テスが悪いわけではないのに、辛い過去を許すことができない男の小ささ。ラストも今更戻ってくるのおせーよと。こいつのせいで殺人まで犯してしまい、絞首刑となってしまうテスはあまりにも辛すぎる。当時の封建社会、男女の身分差が暗い影を落とす。ハッピーエンドが望ましかった。ナスターシャ・キンスキーの美しさ、寂しげな表情は圧巻。
美女と取り巻く身勝手な奴ら
美しいが故に要らぬ不幸を背負ってしまった。娘に頼り働かずに済ませようとする両親、弱みにつけこむ男、自分の許しを請いながら人は許せない身勝手な男。
特に、この婚約者は、今更のように会いに来て混乱させて、結果身を滅ぼさせる。最後まで助ける、といいながら、即物的な欲望に負け、救おうともしない。男として許せない。
典型的な周囲の悪状況で、健気に生きるナターシャ・キンスキーの無邪気すぎる姿と美しさが際立つ。風景の美しさと相まって心に残る。
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