父の祈りをのレビュー・感想・評価
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父と息子
70年代、北アイルランドのIRAとイングランドの抗争の中で実際に起こった冤罪事件を基にした映画。ケネス・ブラナーによる映画「ベルファスト」を思い出す。冤罪で30年の服役を言い渡され結果15年も刑務所に入れられた若者たち、その中の一人ジェリーは自分の父と叔母にまで冤罪が及んだ。検察側は彼らが全くの無実だと知っていてその証拠書類は弁護側に見せてはならないと隠蔽もしていた。
「刑務所の中にいても頭の中は自由」だから、毎日妻と頭の中で散歩しているんだと、歩く道の名を一つ一つ挙げるジェリーの父ジュゼッペ(アイルランド人なのになぜイタリア人の名前?その楽しい理由は映画の中でわかる)。家族を愛し息子を信じ誰も憎まない穏やかな、敬虔なカトリック信者の父親。そんな父を馬鹿にしながら子どもの時の父との思い出をよく覚えていて、でもまともな仕事につかず人生舐めてるようなジェリー。父親のこと好きなのに疎ましく煙たがっている。血の気が多く我慢強くない。誰もが思い当たる若い時の不貞腐れと怒りでいっぱいで、優しい父に素直になれない。その若者ジェリーをダニエル・デイ=ルイスが素晴らしく演じていた。だんだんに弱る父を看護しながら、挫けず再審を求め市民団体への手紙を書き続ける父の手助けをするようになる。父が死んだ。父の死を悼んで刑務所仲間が紙に火をつけて窓から外へ落とす。幾つも何枚も。夜の中のその風景は悲しく強く美しかった。
刑務所での映画鑑賞会、耳に親しんだあの物悲しい追憶のメロディーがしばらく流れる。「ゴッド・ファーザー」だ。ようやく映像が映る。マイケル(パチーノ)と父のコレオーネ(マーロン・ブランド)が庭で話すシーンだ。スーツ姿の息子とリタイアした普段着の父が公私含めた話をする。家族とはうまくいっているか?自分が死んだらバルジーニとお前を会わせる提案をしてくる者が来るだろう、そいつが裏切り者だと息子に伝える。ここでもテーマは「父と息子」、監督のセンスいいと思った。
エマ・トンプソン演じる若き弁護士は誠実で賢く法を信じる真っ当な人間だ。ジュゼッペは息子と違って人を見る目があるから彼女と共に戦うことにした(ところで日本の法曹界はどうなっているのだ?)ジュゼッペを演じたのはピート・ポスルスウェイト、「ユージュアル・サスペクツ」のコバヤシ役。一度見たら忘れられない面構えのいい俳優。そして「ユージュアル・サスペクツ」の重要出演者の一人、ガブリエル・バーンがこの映画「父の祈りを」のプロデューサーだ。バーンがアイルランド人であることを思う。
おまけ
原題 "In the Name of the Father" は自分が知っている「主の祈り」にはない。カトリックのお祈りの言葉なのかな?
タイトル考えた方がよい
イギリスの冤罪事件の実話でした。イギリス人には有名な事件だろうから原題でいいのかもしれないけど、馴染みの薄い日本人向けにこのタイトルは意味をなさない。
ルメット選手が取り上げそうな社会派のリアルガチです。俳優も含めてイギリス映画特有の重厚さにあふれた作品です。ただ、話のテンポが少し緩いかな?
イギリス独特の裁判風景は日本人には少し戸惑います。
隠れた名作
100本ほど映画レビューを投稿し、鑑賞だけであればそれ以上見てきているのだがこの作品ほどレビュー数と評価が比例しないのは初めてかもしれない。
レビューが少なくとも、決して評価が高くなくとも心を打つ作品はあるのである。
たった1%の確率でこの作品に出会えた偶然に感謝する。
ショーシャンクやグリーンマイルが好きな人には是非見ていただきたい。
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