「にらめっこ」地下室のメロディー yanpakenさんの映画レビュー(感想・評価)
にらめっこ
ネタバレはチェックをつけてください、ということだが、ネタバレせずにまともなレビューをかけるのか?この映画の本当の面白さはラストシーンにある。他の映画もたいていは、ラストシーンに力を入れる。というか、ネタバレしてもその映画を見たくなるようなレビューこそが、良いレビューということだろう。
この映画はラストシーンを楽しむために存在する映画である。いちおう犯罪映画であるが、推理ものではない。はらはらどきどきの映画である。そのはらはらどきどきが単なるサスペンスではなく、的確な、しかもユーモアあふれる心理描写で成り立っている。
ヒッチコックも同類といってよいが、ヒッチコックは行動のタイミング、つまり犯罪者が思う通りに(あるいは警官が思うとおりに)他者の行動が進むかどうかが、はらはらのポイントである。人は思うように動かない。だから、面白いので、映画ができる。
映画の表現の問題としては、そのずれをどう感情で表現するか、つまり、思い通りに行っていないことがわかった俳優がそのいらいらやくやしさをどう表現するかということが問題となる。たぶん、ヒッチコックとこの映画の監督との違いはそこで、それは、行動のずれを認識して、その感情を表現する俳優の基本的な世界観のようなものの違いである。ひいては、監督の世界観の違いといえる。ちょっと大げさだが、世界あるいは他者を受け止める受け止め方の違いだろうか。
ラストシーンに言及しなければ映画レビューは成り立たないと断定したので、ラストシーンに言及する。主人公のアランドロンは動かない、表情を変えないのである。つまり、見る人はアランドロンとにらめっこして笑いをこらえるしくみとなっている。アランドロンはいつ笑うのか、笑ったら負けよ、で終わる。今にも笑いそうで笑わないアランドロン、だから何?その先は何?捕まる寸前のアランドロンにそう問いたくなる過剰な余裕は、はらはらどきどきだけのヒッチコックにはない。他にも笑えるけれども笑えないシーン満載のサスペンス映画。ヒッチコックを意識したかどうかわかりませんが、そこを超えた。