劇場公開日 1960年1月30日

脱獄十二時間のレビュー・感想・評価

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5.0中世と見間違うほど、暗く重苦しい牢獄から脱した三人の男達の運命を、深い陰影のモノクロ撮影で表現するノワール

2021年12月4日
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スリラーの名作『悪魔ような女』(1955年)やヒッチコックの名作で近年評価が高い倒錯サスペンス『めまい』の原作コンビでもあるピエール・ボワローとトーマス・ナルスジャックの原案脚本なので期待したが、サプライズ的なスリラーやサスペンスより、過酷な刑務所で忘れた安息と自由を取り戻そうとする男達と港のクセ者たちとのフイルム・ノワールとして仕上げられている。

冒頭から中世と見間違うほど、暗く重苦しい牢獄を、深い陰影のモノクロ撮影で見事に表現していて正にフイルム・ノワール。
撮影のアンリ・カルタンは、全編に渡って陰影に富んだモノクロ撮影を屋外ロケとスタジオロケでも統一感をもっていて特に素晴らしい。
カメラアングルもファックスのみならず、ちょっとした移動撮影を心情に応じて要所で使い巧みである。

主演はフランスのノワールの代表でもある名優リノ・バンチュラであるが、今作ではどちらかと言えばドイツの名優ハンネス・メッセマーの方が儲け役でもある。(ちなみに自分はリノ・バンチュラが以前から贔屓の役者です)

特にそれまではドイツの軍服姿のイメージだったハンネス・メッセマーが印象的なのは、同獄の仲間から何時も聞かされていた奥さんに想いを秘めてしまった男の純情をクールに体現しており、スマートな黒いセータ姿も似合っていてとても格好良い。

港の酒場のマダムで裏家業で密航斡旋もしているローラン・テルジェフの当時60代とは思えない美しくも貫禄ある年増振りもお見事。
リノ・バンチュラが彼女のベッドに横たわり嬉々と安堵する場面でのやりとりもイイ。(その姿に監獄の過酷さも垣間見えるが)

007の名悪役ゴールドフィンガー役で知られるゲルト・フレーベの老年写真家と奴隷のような若い愛人的立場のエバ・バートックの関係性などは結構不快で不気味なのは『悪魔のような女』を想起させるし、更に彼女と付き合っていた男と婚約者の関係もなんとも怖い。

脱獄犯の妻であるエバ・バートックが半裸で拳銃を持つ場面などは、生活感(室内の美術セットの質感などの出来も高水準)にも関わらず、白い素肌の背中と振り返る姿勢も相まってとても美しい。

パリ祭革命記念日で浮かれる人々に混ざってバンチュラに絡む若い警官との喜劇的やり取りとその顛末なども意外性が定番ながら面白い。

出番は僅かだが、密航船の男が終始変わらず無情な態度で金に執着するのもラストを甘くせずにスパイスになっている

『悪魔ような女』や『めまい』ほどの完成度や話題性は無くて、アメリカ映画のノワールなどよりバイオレントで直線的な犯罪劇として展開やスピード感は弱いが、この捻れた展開と皮肉な雰囲気は如何にもフランスのノワール的で、もたつくところもあるが、三人の男達と悲しい女の非情な最後を深い陰影のモノクロ撮影で表現するノワールとしてとても楽しめると思う

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