「無差別殺人者の心理状況。」タクシードライバー とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
無差別殺人者の心理状況。
冒頭、デ・ニーロ氏の演じるトラヴィスの声が、ホアキン・フェニックス氏の声に聞こえた。
『ジョーカー』は未見なので比べようもないが、『ザ・マスター』の時のフェニックス氏の声を思い出してしまう。
他のレビューを拝見すると、この映画と『ジョーカー』がとても近しいらしい。
年代からして、フェニックス氏が、この映画のデ・ニーロ氏の発声・言い方を真似したのか、根本的に同じものをお持ちなのか。『ザ・マスター』でのフェニックス氏の役も帰還兵。そこが共通項なのか?
刹那的な生き方。
それでも、恋をしてみようとしたり、人助けをしようとしてみたり。
言っていること・やっていることはちぐはぐで、鑑賞している私からはすべてが空回りしているようにしか見えないが、トラヴィスなりには己の正義を貫いているつもりなのだろう。
このまま、トラヴィスの鬱屈した生活と、アイリスとの出会いが交差して話が進んでいくのかと思ったら、途中から物語の舵が大きく切り替わる。
たんなる承認欲求ではない。
受け入れてもらいたい。一目置かれたい。One of themからの脱却。
鏡の前のトラヴィスがかわいらしくも、悲しい。
新しく手に入れたアイテムを身に着けて喜んでいるだけじゃない。
「俺になんか用か?(思い出し引用)」素通りされる人間ではなく、”用がある”≒そこにいる意味がある人間として扱われること。その状態への渇望。
大統領候補襲撃。
大きなことをして、ベッツィを振り向かせたい。ベッツィの大切にしているものをぶち壊して、自分とベッツィ達を線引きした事務所の奴らに復讐したい。「応援している」といったのに、自分を大切にしなかった候補への逆恨み。
「街にあふれるゴミを水洗トイレのように押し流してきれいにしたい(思い出し引用)」という思いはあるものの、大統領候補を殺したところでその思いが叶うわけもなく。建設的な方法を考えや方法を学ぶでもなく、以前の自分が持っている方法の延長しか思いつかない。
そして、売春宿襲撃。
トラヴィスなりには、アイリスを助けたつもりなのだろう。
だが、アイリス自身はそれを望んでいたのか?アイリスにとっては正義の押しつけにもなりかねない。
売春宿を一つ潰したとして、アイリスがまた家出してくる可能性もあり、買春する者が存在する以上、解決したわけではない。
そして、後日談。
トラヴィスは罪には問われないのか?新聞に掲載されているトラヴィスの写真は身分証?事件当時の髪型と違う…。
マスコミや両親、ベッツィはトラヴィスを認めているようだが?
運転手仲間は、特に英雄視もしていないが。だが、以前よりトラヴィスが彼らの輪に入っているように見えたのは、トラヴィスが自信を得て輪の中に入っていったからか、仲間がトラヴィスに一目をおくようになったからか?そして、この時の髪型は…。
混乱する。
殺人罪に関する法が、USAと日本で違うのか。でも、強盗を撃った時は警察に捕まらないように逃げたのに…。
いろいろなレビュー・解説を読むと、トラヴィスの妄想・夢落ちという説もあるとのこと。どこからどこまでが、妄想?鑑賞者によって変わるのだろう。
当時のUSAを支配していた空気感。
帰還兵たちの思い。トラヴィスはどういう経緯でベトナム戦争に駆り出されたのか?共産圏を倒すという大儀ある戦争として始まったにも関わらずの、「実は」という虚が暴かれていく戦争。
1970年代のNY。夜にうごめく者たち。USAの正義を掲げて、命の危険にさらされて戦ったにもかかわらず、帰国してみての国内の様子。自分は何を守ろうとして命を危険にさらしてきたのか。「街にあふれるゴミを水洗トイレのように押し流してきれいにしたい(思い出し引用)」という気持ちはわからなくはない。そんな中で、One of themに埋もれて行ってしまう焦燥感…。
ある論評では、保守回帰の時代風潮を反映しながらも、変質していく時代を見つめているという。
それらを見事に切り取った映画との評を読む。
映画が公開される前の1972年に起こったウォレス大統領選候補襲撃事件。
この映画に影響された犯人が起こしたレーガン大統領暗殺未遂事件。
映画公開当時はトラヴィスがPTSDでという説明で片付けられただろうが、
いま、日本でも、USAでも、無差別殺人事件が頻発している。
ヒリヒリ来るような、この孤独感、無価値観。
何かになることを期待され、何かになれると夢を与えられつつも、現実的には一億総カオナシ。
ベトナム戦争を経験したUSA。
日本は?
そのことを考えると、トラヴィスを英雄のように扱ったラストに賛同できない。
とみいじょんさん
「 パラダイス・ナウ 」、承知しました。
ロシアや中国での思想統制、本当に恐ろしいですよね。
日本も、防衛力強化に力を入れ始めましたが、願うだけでは平和な世の中でいられない現実が悲しくもあります。
明るく振る舞っている若い人達も、世界の現状に心を痛めているのでしょうね。
とみいじょんさん
「 パラダイス・ナウ 」、機会がありましたら観ますね。
たまたま近くの映画館で上映しており、観る事が出来た「 ガザ 素顔の日常 」を観て、ガザ地区に生きる人々の心情が以前より具体的に理解出来た気がしています。
仰る通り、世論で事態が大きく動く事が時にありますよね。ロシアに協力する国が居なければ、ウクライナ侵略を未だに続けられていなかった可能性もありますよね。分かりませんが。
親が投票に行く家庭で育った人は、当たり前のように投票に行っているような気も。私も必ず足を運んでいます。
とみいじょんさん
ウクライナもそうですが、意図せずして戦わねばならない事態が、今後更に増えそうですよね。各国、特に大国のトップには、そうならないよう全力を尽くして頂きたい。
そう願うしかありません。
とみいじょんさん
そうですよね。
世界的にもそうなっている気がします。
世界のあちこちで紛争や戦争が起きており、そのうち日本も巻き込まれていくような、そんな不安定さが怖いです。
とみいじょんさん
京アニ事件、余りに痛ましい事件でした。生き地獄ですよね。
被告が一方的に思い込み、身勝手極まりないやり方で抗議をするという。治療に携わった関係者の皆さんの精神力、私には想像もつきません。
自分本位で身勝手な犯罪が本当に多過ぎますよね。
とみいじょんさん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
「 人を変える 」、ラストの朗らかな笑顔、そういう事だったのでしょうね。
今、犯罪に手を染める人が以前より増えてるような気がしますが、着手するのを何とか思い止まって貰いたいですよね。
とみいじょんさん
私もラストシーンに戸惑った一人ですが、夢想しただけで、行動に起こさなかった… という解釈をしました 😅
確かに、おどけたようなとても明るい表情でしたね。どうなのでしょうね。