「ぎらつく危険な野心と美貌の主人公」太陽がいっぱい Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
ぎらつく危険な野心と美貌の主人公
総合:90点
ストーリー: 85
キャスト: 90
演出: 90
ビジュアル: 75
音楽: 80
この映画の見所は、まずアラン・ドロン演じるトムの美貌と、屈折した劣等感からくるぎらぎらした野心溢れる演技である。金持ちの家に生まれたというだけで全てを持っている男フィリップがいる。若くて美男子でいい女を連れて、働きもせずにただ欧州で金を使いまくりの豪遊生活。高級な服に身を包み、自分のヨットで航海し、目の前で女といちゃつかれる姿を見続けなければならない日常。傲慢なボンボン息子を連れ戻し5000ドルの報酬を得る任務はうまくいかず、彼には蔑まれるだけの屈辱の日々。上流社会に憧れながらも、生まれが違うだけでどうにもならない差が、彼の心の劣等感を悪魔に変えていく。トムのほうも若くて美男子であるから、金さえあれば自分だって欲しい物を全てを手に入れられるさ、という野望の向かう先の危うい魅力を感じさせる。
原作を同じくするマット・デイモン主演の「リプリー」はより原作に近い形での映画化らしく、渡欧前のアメリカでの生活までしっかり描かれていて、これはこれでより主人公の劣等感に焦点が当たりそれがよくわかる話になっていて面白い。だがこのドロン版の最初の作品は、主人公の美しさとぎらつく危うさの魅力に溢れている。個人的に今まで見たドロン出演作での最高の作品。
またヒロインのマージェを演じたマリー・ラフォレが、屈折したトムと我儘なフィリップに挟まれながら、唯一の穢れのない純な存在として柔らかな雰囲気を作り出す。トムが唯一純粋に気に入る相手でもある。
もう一つは犯罪物映画としての面白さであり、彼の犯罪計画である。相手の情報を手に入れ相手を殺してすり替わる。口座を押さえ、署名を練習し、パスポートの偽造をし、口振りをまねるところまで手を抜かずに細かくきっちりと撮影する。そのためにこの犯罪が現実的となり視聴者にも迫ってくる。フィリップの彼女に不自然さを指摘されたり、危うくフィリップの知り合いに遭遇し身分がばれそうになったり、警察の追跡をすんでのところで躱したり、さらには警察を騙して利用したりと、常に緊張感を強要される。
気になったのはトムからフィリップの母親宛の手紙。フィリップのものではなく、トムの指紋と唾液がたっぷりとついたものを送っちゃ駄目だろう。ここは数少ない突っ込みどころ。
ここからけっこうねたばれです。注意してください。
そして最後、あれだけの緊張感を強いられた逃亡生活が終わり、きらきらと輝く太陽の下、穏やかな気分で浜辺でくつろぐドロンの姿。全てが終わり、過去の自分にさよならを告げて新しい生活を夢見て、勝利の美酒に酔おうとするその時。物悲しいニノ・ロータの音楽と共に、唯一穢れのない登場人物だったマージュからの絶叫が、トムの作り上げた嘘だらけの物語の中で真実を晒し、物語を結末を見事に締めくくってくれた。
長いこと海の中にあった死体が腐乱しているのではないかとか、何故死体の身元がすぐにフィリップと確認できたのかという部分はたいして気にならない。物語の結末を美しくするために、この程度の演出は許されるべきかな。あまりに現実を追及した結果として、死体が耐え難い腐臭を放っていたりしては、この詩的な結末が削がれてしまうだろう。この作品は美しく儚く終わるのがやはり似合う。