第三の男のレビュー・感想・評価
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脚本、演出、演技、撮影、音楽、すべてが揃っていて、好きになれない
戦後の荒廃したウィーンを舞台に、友人の殺害事件の謎を解明するアメリカ人の三文小説家を主人公にした完璧なサスペンス映画。グレアム・グリーンの巧妙な起承転結で惹きつけるオリジナル脚本とロバート・クラスカーの考え尽くされた構図に光と影のコントラストが見事な撮影、そして律動的に心地良い緊張感を生むメロディーを民族楽器ツッターで奏でるアントン・カラスの音楽、これらが完全一体化したリードの演出には感嘆しかありません。
ただ、ラストシーンが象徴する悪の道に染まる友人を愛した女の堅固な情動が独占しすぎて、主人公の活躍が徒労に終わる物語の虚しさに、どうしても物足りなさを感じてしまう。名優オーソン・ウェルズとアリダ・ヴァリふたりの存在感と比較して、主演のジョセフ・コットンの演技力含めた魅力が弱く、役柄も善人過ぎて深みがない。設定の売れない作家はあっているのだが。映画史上の名ラストシーンでも、好きではない。
キャロル・リード作品では、「邪魔者を殺せ」「落ちた偶像」が気に入っているし、名匠66歳の遺作「フォロ・ミー」が一番好き。
作品を際立たせるセリフ
「第三の男」は古典的名作だし、アントン・カラスのテーマ曲も「超」が付くほど有名で、誰でも一度は耳にしたことがあるように思う。
先般鑑賞した「名もなき生涯」が第二次世界大戦中のオーストリア人夫婦のストーリーだったことから、大戦後のウィーンを舞台にした「第三の男」を思い出してレビューを書いています。
この映画は、オーストリアが二度の大戦の敗戦を経て米英仏ソの分割統治となり、オーストリア=ハプスブルク帝国の栄華からの凋落が著しいなかの、荒廃したウィーンを舞台としている。
ストーリーは、サスペンスタッチで御存じのことかと思うが、僕がこの作品で最も印象的なのはハリー(オーソンウェルズ)がホリーに話す、プラーター公園の観覧車の乗降口でのセリフだ(僕はバックパッカーをしてた時に、これに乗りました(自慢))。
字幕ではもっと簡潔な表現だったと思うが、僕の意訳で失礼します。
↓
「イタリアは、戦争や虐殺が絶えないボルジア家圧政のわずか30年間でミケランジェロやレオナルドダヴィンチ、そう、ルネサンスを生み出した。しかし、スイスはどうだ。民主主義と平和の500年の慈愛に満ちた歴史は一体何をもたらしたのか。鳩時計だ。」
これほど教養と皮肉に満ち溢れた、そして対比も完璧なセリフが実は、オーソンウェルズのアドリブだと言われている。
30年 vs 500年
戦争と虐殺の圧政 vs 民主主義と平和
ルネッサンス vs 鳩時計
(多くの人はルネサンスというとメディチ家を思い出す人は多いと思うが、ボルジア家が「?」という人は、塩野七生さんの「チェーザレ・ボルジア或いは優雅なる冷酷」を読んでみてください。)
荒廃したウィーンでの犯罪行為を、まるで煌びやかな芸術をもたらす世の習いだと肯定するかのようなセリフ。
しかし、そうだろうか。
クリムトもエゴン・シーレも崩壊寸前の19世紀末のオーストリア=ハプスブルク帝国にあって、退廃をもアート作品のテーマとし、そんな栄光も既に遠い過去のものになっていたではないか。
そう、これにはきっと逆説的なメッセージがあるのではないのか。
ミケランジェロは、ローマ・カトリックの意向に沿った数々の傑作を残した。
システィーナ礼拝堂の天井や壁。「2人のローマ教皇」の会話の舞台だ。
サン・ピエトロ寺院の入って右手にあるピエタは、磔刑から降ろされたキリストはが悲嘆に暮れるマリアの腕の中で瑞々しい肉体を保持して、死からの復活を予感させるというロー・マカトリックの神の物語だ。
しかし、ミラノにある遺作となった「ロンダニーニのピエタ」は人間の物語だ。
あえて荒削りのままにした作品を前方から見ると、死んだキリストを抱え起こそうとするマリアに見えるし、背後から見ると、年老いたマリアをキリストがおぶっているように見えるのだ。
子が亡くなれば親は悲しく、生き返るように祈るだろう。
そして、子は成長して、親を労わるのだ。
ローマ・カトリックの支配の下、宗教的メッセージが強要されるような時代にあっても芸術家たちは既存の価値観に挑戦していたのだ。
芸術は圧政や潤沢な資金が生み出すのではない。
作品を生み出すのは人間だ。
そして、ルネサンスも決して永遠ではなく、バロックに取って代わられるし、その後も、印象派やシュルレアリズム、現代アートと芸術はフロンティアを求めていく。
また、このセリフは現代の独善を逆説的に皮肉っているかのようでもある。
それは、古き良きアメリカを取り戻すとか、分断や特定の価値観だけを後押しするような独善だ。
ハリーがボルジア家のイタリアに想いを馳せても、古き良きオーストリア=ハプスブルク帝国の栄華に想いを馳せても、後戻りなど出来ないのだ。
特定の考え方に固執する独善は滅びるしかないのだ。
「第三の男」のハリーの運命を見ても、それは明らかだ。
この作品には、あのセリフと一緒にそんなメッセージがこめられていると思うのだ。
ところで…(余談)、
映画の名セリフというと、実はこんなに長いセリフは稀で、もっと短い決めゼリフが多い。
先般ファイナルカット版が公開された「地獄の黙示録」のキルゴアの話す「朝のナパーム弾の匂いは格別だ」は好感度はかなり低いが、名セリフとされている。
T2の「I'll be back」や「地獄で会おうぜ、ベイビー」もそうだ。
古いところだと、「カサブランカ」は名セリフの宝庫のように言われていて、男としてカッコいいと思うのが、「昨日何してたの?」という質問に「そんな昔のことは覚えてない」、そして、「今夜会える?」という問いに、「そんは先のことは分からない」と言うやつだ。
カッコいい!是非言ってみたい!
そして、英語のオリジナルと字幕の意訳がどちらも名セリフというのもある。
同じく「カサブランカ」の「Here’s Looking at you, kid」と、その字幕「君の瞳に乾杯!」だ。実に、見事だ。もしかした、英語のオリジナルを字幕が超えてるかもしれない。
だが、この逆もある。
「風と共に去りぬ」のTomorrow is another dayが、「明日は明日の風が吹く」と翻訳されて批判されたのは有名な話だ。明日に希望を抱くセリフが、明日は明日の風とは何事だという批判だった。お気の毒だ。
先般レビューを書いた「薔薇の名前」の最後のラテン語の詩は、セリフではないが、ウンベルト・エーコのちょっとした悪戯心が感じられる。
映画は、このようにセリフに注目して観ても楽しい。
ネットを開くと、映画の名セリフは簡単に検索出来るが、僕は既に絶版になってしまったが、ご逝去された和田誠さんの「お楽しみはこれからだ」シリーズをお勧めしたい。あんなに、愛情の溢れたセリフ集はない。古本屋にはあると思うので、興味のある人は是非。
改めて和田誠さんに合掌。
ホリーのアンナへの恋心、パスポート偽造、アンナのハリーに対する気持...
ホリーのアンナへの恋心、パスポート偽造、アンナのハリーに対する気持ちと気丈な性格、ハリーというサイコパス男を追う少佐がストーリーの中で途切れる事なく作用し続けているのが凄い。話の最後までそれがきいてる。
猫がハリーには懐くっていうアンナの台詞があって猫が出て行き、姿を映さない男の靴をペロペロする。
ホリーが窓辺で部屋の灯りを消して点ける動作をする。アンナの心にハリーしかいないと悟って部屋を出るホリー。
尾行者がいる。ニャンコの鳴き声も。
「出てこい!」
周囲の住民が「うるさいよ!」的な文句をいって灯りをつける。
パッとオーソンウェルズの顔が照されて、部屋の灯りが消えてまたいなくなる。イイ!
後半は本当にわかりやすくて、気持ちがわかり過ぎてしまう説得力ある脚本。少佐はハリーを捕まえる為だけにアンナに接触しただけだからこの展開も納得いくし、アンナのセリフもブレたところが一個もない。ホリーが決断を変えてしまうのも人間くさくて共感してしまう。
ラストもすごく府に落ちる。
映画の教科書のよう。
初めて見たのは「そして誰もいなくなった」との二本立てでした。
濃い~。
戦後のどさくさに紛れて、一儲けを企む輩が入り混じって展開していきます。
白黒だからこそ演出できる影と光のコントラスト。
カメラワーク、有名な大観覧車のシーン、下水道の影。
そして名ラストシーンとしてよく紹介される一本道のロングショット。
どれをとっても文句なしの映像です。 いい意味での教科書のよう。
音楽もずーっと耳に残り、大好きな映画です。
チターの音色
米英仏露の4つに分割されたウィーン。皮肉なことに共通語はドイツ語。クルツ、ポペスク、そしてもう一人は?女も怪しいし、医者も怪しい・・・というサスペンスだ。
キャラハンとキャロウェイ、ハリーとホリー、名前を必ず間違える伏線。三文小説家と貶されたり、いきなりのパーティで英文学の質問ばかりされてさっぱり答えられないマーティンス。結局は友人に利用されるだけされて、それでも優しい彼の生き方も素敵だ。
チターの演奏が東欧の雰囲気を醸し出し、わからない外国語の中での疎外感はアメリカ人らしくないアメリカ人マーティンスに哀愁を帯びさせてます。中盤あたりのカメラワークが猫を使ったり、花の中にカメラを入れたりと実験的で、かなり凝っていることにも気づきました。最初に観たのは小学生の頃で、当時の方が緊張感を味わった。
ラストの枯葉散る並木道は、以降色んな映画で取り入れられている手法ですよね・・・これが元祖なのかは知らないけれど。
いつの時代も
いつの時代も面白いものは面白い。
なぜか耳に残ってしまう能天気な音楽と、意外とシリアスな物語。人々の証言の食い違い謎が一層深まる様は、まるで芥川龍之介の小説のよう。
何はともあれ、普通に面白い古典映画でした!
意外な展開
殺された友人の汚名を晴らすべく真相解明に動くホリーだが、意外な展開孤独に驚きました。
ストーリーに古臭さはありません。名作と言われる由縁も分かる気がします。
アントンカラスの音楽も場面場面を盛り上げます。もうちょっとドキドキ感が出る曲調の方が良かったのでは?とも思いました。
白黒映画の良さを十二分に堪能出来る。ストーリーも良く出来ていていつ...
白黒映画の良さを十二分に堪能出来る。ストーリーも良く出来ていていつ観ても古臭さは全く感じられない。ラストシーンの映像と音楽は美しくいつまでも記憶に留まる永遠の名作。
サスペンス映画史上不朽の名作。なるほど納得。 なんとも印象的な音楽...
サスペンス映画史上不朽の名作。なるほど納得。
なんとも印象的な音楽から物語は始まる。エビスビールが飲みたくなる(笑)
第三の男は誰だ?いつどこから現れるんだ。ワクワクハラハラです。そして圧巻の下水道での攻防。
登場人物それぞれが味のある渋い演技を見せます。
私はなんといってもラストシーン。しびれました。
モノクロ映像であることがかえって素晴らしく思えてきます。サスペンス好きならぜひ見るべき古典的名作です。
敬意を表して
高校時代以来だけど、前回と違う目で見た新鮮さはあった。
ウィーンの街並みのカメラアングル、坂道もあり、スピード感と不安定さが緊迫感を増す。
ラストシーンも悪くない。
後半はちょっとたるいけど、下水道の追跡シーンは、後世の映画にも影響与えていると思う。
分からん
これが何故名作と呼ばれているのか分からない。ストーリーは読めてしまうし、主人公に感情移入するのも難しい。古い映画という事もあってか、人と人との距離感が分からない。音楽がなんとなくミスマッチじゃない?エンディングは印象的だったけど。。。
フィルム・ノワールとの出会い
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まず「フィルム・ノワール」って何?
フィルム・ノワール (film noir) は、虚無的・悲観的・退廃的な指向性を持つ犯罪映画を指した総称である。
狭義には、1940年代前半から1950年代後期にかけて、主にアメリカで製作された犯罪映画を指す。
(Wikipediaより引用)
代表作の中でこれまでに観たことある作品はなかった。日本映画でも、黒澤明監督などの作品でこのジャンルに入るものがあるとか。
虚無的・悲観的・退廃的な指向性か・・・
警察も知り合いも口を揃えて「ハリーは死んだ」と言うが、なんか辻褄が合わない。怪しい。ホリーが独自に調査していくと、予想外の結末が待っていた。というストーリー。
内容はそこまで面白いってわけじゃなかったけど、舞台が終戦直後のウィーンだったり、60年以上前のモノクロ映画だったりで、異世界の雰囲気を楽しめた。いつもと違う世界にいける気がするから、映画とか美術館とかって好き。
あと軽やかでコミカルな音楽も独特で良かった。
ハリーの恋人である踊り子アンナ役のアリダ・ヴァリさん、めちゃくちゃ美人で神々しい。そんなアンナに叶わぬ恋をしてみたり、素人の単独調査なのに警察の協力を仰いでハリーの墓を掘り起こしてみたり、ホリーは一生懸命だけど滑稽なキャラ。
時代背景からして、ハリーは実はどっかの国のスパイで、終戦と共に祖国に帰るなり姿をくらますなりしたのかなって推測していましたが。違いました。全然推理が当たらない人ですわたし。でもそんなスパイ系の壮大なストーリーを勝手に思い浮かべながら観ていたからか、ハリーの本性や失踪の動機が随分しょぼい気がした。ラストだって、親友とはいえホリーが絶対に裏切らない保証はないのに自分からのこのこ出て行ったりして。脇が甘い!とか思いました。
あと名前ね、けっこう後半までホリーなんだかハリーなんだかで混乱してた。しょーもな。笑
このオーソン・ウェルズという俳優さんは、顔の角度によって全然違う人に見えるという特徴があった。斜め横から見るとそこそこイケメンなのに、正面から見るとほっぺがぷっくりしすぎてて冬眠前のリスですか?って感じだった。全体的にくりぃむしちゅーの有田に似てる。不思議な顔。
光と影のコントラストが美しい
白黒であるがゆえに単調になりがちな画面を、絶妙なカメラワークと高めのコントラストで美しく見せる。
夜の張り込みシーンや下水道の追跡シーンは素晴らしいのひとこと。
でも……。
うーん、こんな話だったっけ……。
分割統治下のウィーンの真実を織り込んだシナリオなんだとは思うのだけど、なんかこういまいちすっきりしないなぁ。
主人公ホリーをわざわざ呼んだ理由も、事件の真相も、真相が明らかになっていく展開も、なんというか、筋が通ってない感じがある。
映像に比してストーリーが劣る。3.5。
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