劇場公開日 2017年8月26日

「なんという素晴らしい邦題だろう! 本作のテーマを見事なまでにえぐっている」戦争のはらわた あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0なんという素晴らしい邦題だろう! 本作のテーマを見事なまでにえぐっている

2020年12月22日
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鑑賞方法:DVD/BD

何故ドイツ軍を描くのか?
英国、西ドイツ合作映画だとしても
何故米国人監督なのか?
英国人でもなく、米国人監督が撮るのか?
どうしてサム・ペキンパーが担当するのか?
どうしてこれほどまでにむき出しの戦争の現実を執拗に描こうとしているのか?

何故戦争のプロの下士官兵とプロセイン貴族の将校との対置構造なのか?

何故ホモセクシャリズムが重奏音のように通低しているのか
なぜに美少年が冒頭とラストシーンに登場するのか?

何故ソ連女性兵士のシーンはあるのか?
何故男性器を噛みちぎられるのか?

何故主人公は美しい看護婦との家庭を取らず、なぜ原隊に復帰するのか?
あの地獄の東部戦線に戻ってしまうのか?

映像にはすべて意味があるのだと思う

戦争の悲惨、凄惨な実相を執拗に描くことで反戦メッセージにする?
そうではない
そんなものはペキンパー監督の頭にはこれっぽっちもない

思い浮かぶのは「相対的」という言葉だ
戦争の圧倒的な暴力によって、文明の皮膚がすべて剥ぎ取られた時に、どのような世界があるのか
それが本作のテーマなのだと思う
宗教、歴史、思想、性的な規範、正邪の概念
そんなものはすべて崩壊した世界
人間が頼る絶対的な基準が無くなった世界
すべて相対的化した世界
つまり生き残びるためならなんでもして良い世界
それを表現しようとしているのだ

それはドイツ軍だからではない
英軍でも米軍でも起こりうることなのだ
戦争中の日本軍にも起こった
将来、自衛隊にも起こりうることだ
だから米国人の監督が、ドイツ軍の物語を、英国人の主演で、英語の台詞で撮るのだ
戦争による文明の崩壊は普遍的にどこの国に於ても起こりうる
それを示そうとしているのだと思う

戦争のはらわた
なんという素晴らしい邦題だろう!
本作のテーマを見事なまでにえぐっている

あき240