劇場公開日 2023年9月22日

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「娯楽の真髄を体現している映画を観た満足感に浸れる」007 私を愛したスパイ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0娯楽の真髄を体現している映画を観た満足感に浸れる

2019年3月21日
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鑑賞方法:DVD/BD

ルイス・ギルバートが監督に復帰
この監督海戦映画の傑作ビスマルク号を撃沈せよ!を撮った人だけに今回は適任

前作黄金銃を持つ男が変化球過ぎて今一つ評価が低いのをどう修正して本道に戻すかが本作の課題

前作の反省点としたのはまず時代対応が温かったこと
音楽を名人マーヴィン・ハムリッシュに替えて見直しを図っており随所にその効果を聞くことができる
ガンバレルの音楽からしてテンポをかなり早めている
主題歌は死ぬのは奴らだ!で好評だったポール・マッカートニーとウイングスの路線を踏襲して70年代の空気感があるカーリー・サイモン
歌詞はなんとキャロル・ベイヤー・セイガー
劇伴も時代に合わせてディスコ調それもビージーズ風を入れてあったりしている
本気度がわかる
モーリス・ビンダーのメインタイトル・デザイン のクオリティは変わらず素晴らしい出来映え
これだけで正に芸術だ

肝心お話の内容も観客の観たいものを観せる事に徹底する方針を追求している
ロシアから愛を込めてからは列車内での活劇
女王陛下の007からはスキーアクション
サンダーボール作戦からは水中活劇
もちろんマティーニも無理にでも飲ませる
という具合にセルフオマージュを連発
さらには大ヒット映画のジョーズは鮫に喰われるシーンだけでなく、それを敵の殺し屋にまで練り上げてくる
ロケ地もカイロを出せばアラビアのロレンスのオマージュシーンを入れてくるし、当然ピラミッドもスフィンクスも古代遺跡も、ナイル川まで観せる
尋常ではない位のサービス精神に感服する
小賢しい理屈はいらん、客の求めるものをだせ!
その見上げたプロ根性が貫かれている

それを練り上げた脚本で快調なテンポでまとめてあるのだ
いくら凄いシーンでもそれを惜しげもなくどんどん場面を切り替えていく
どう凄いでしょう!とながなが垂れ流すアクションシーンは皆無だ

そして美術が凄い
予算の掛け方、使い方が物凄い
洗練されたデザインワーク、それをその通りに実現させてある
少しも妥協がない
デザインも少しアート風味な現代性が取り入れられた独創的なものだ
クレジットにはないが当時売れっ子グラフィックデザイナーだったロジャー・ディーンが参画しているのではないか?

俳優陣も素晴らしい
ロジャー・ムーアは真に新しいジェームス・ボンドを確立しており、本作でコネリーとは別のボンドのスタンダードになっている
彼の衣装も細身になっておりシャープだ
大学教授の変装シーンでは太い紺ストライプのシャツを着せておりコネリーではだせないお洒落感を出している
これは当然ボンドカーのロータスエスプリに合わせたものだが、ムーアに実に似合っている

ボンドガール達も素敵だ

しかしなんといってもジョーズ!
キャラが立ちすぎなくらいで製作陣もラストシーンで殺すのは惜しくなったのでは?
彼の不敵さ不気味さはゴールドフィンガーの山高帽子を投げる日本人オッドジョブを発展させたキャラクターであるがまさに敵の殺し屋の完成形だろう

本作はその美術の豪華さ内容の濃さで007シリーズの一二の出来映えをダイヤモンドは永遠にと争う名作といえる
娯楽の真髄を体現している映画を観た満足感に浸れる

あき240